Книга - 英雄たちの探求

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英雄たちの探求
モーガン ライス


魔術師の環 第一巻 #1
「「魔術師の環」には、直ちに人気を博す要素がすべて揃っている。陰謀、敵の裏をかく策略、ミステリ、勇敢な騎士たち、深まる人間関係、失恋、いつわりと裏切り。すべての年齢層を満足させ、何時間でも読書の楽しみが続く。ファンタジの読者すべての蔵書としておすすめの一冊。」 --ブックス・アンド・ムビ・レビュズ、ロベルト・マットス アマゾンで5つ星の評価を400件以上獲得した、#1ベストセラ! ベストセラ作家モガン・ライスが世に放つ輝かしい新ファンタジ・シリズ。「魔術師の環」第一巻「英雄たちの探求」は、リング王国のはずれにある小さな村出身の14歳の少年が成人していく過程を中心に展開する壮大な物語。ソアグリンは4人兄弟の末っ子、父親からは最も疎んじられ、兄たちにも嫌われているが、自分が他の者とは異質であることを感じていた。偉大な戦士になって王の軍団に属し、峡谷の反対側に棲む生き物の群れからリングを守ることを夢見ていた。成長し、国王の軍団、リジョン入隊の試験を受けることを父親から禁じられた時も、ノという返事を受け入れず、宮廷へ赴いて受け止めてもらう決意で自ら旅に出た。 一方、宮廷では王家の家族のドラマがあり、権力闘争、野心、嫉妬、暴力、そして裏切りがはびこっていた。マッギル国王は自分の子どもたちから後継者を一人選ばねばならない。王家の権力の源である運命の剣は、未だ触れられることなく選ばれし者を待ち続けている。よそ者としてやって来たソアグリンは、受け入れられようと、そして国王のリジョンに入隊しようと奮闘する。 ソアグリンは、自分が特別な才能を授かり、自分でも理解しがたい力が潜んでいること、そして特別な運命を定められていることに気付く。彼はまた、あらゆる障害にもめげず王女と恋に落ちるが、二人の禁じられた関係が深まるにつれ強力なライバルの存在に気付く。自分の持つ力を理解しようとソアグリンがもがくなか、国王の魔術師は彼を庇護し、峡谷、そしてドラゴンの棲む国も越えた遠い地にいる、ソアグリン自身も知らない彼の母親のことを教える。 ソアグリンが危険を承知で望んでいる戦士になるためには、訓練を最後まで受けなければならない。だがその試みも、王室を舞台にした陰謀や策略の渦中に置かれ、中断させられる可能性が出てきた。恋愛も、自分の立場も破滅に追い込まれるかも知れなかった。そして王国もまたそうした動きに巻き込まれる。 物語世界の構築と人物設定に磨きをかけた「英雄たちの探求」は、壮大な冒険の物語。友達、恋人、ライバル、求婚者、騎士とドラゴン、そして陰謀、策略、成年、失恋、欺瞞、野心と裏切りを描く。栄誉、勇気、運命、そして魔術の物語である。忘れることのできない世界へ読者を引き込む、すべての人を魅了するファンタジ。82,000語。 注:読者の方々のご指摘により、本書の編集・原稿整理を行いました。ファイル版の本書では誤植および文法上の誤りはすべて訂正されています。 シリズの第三巻~第十二巻も発売中です! 「冒頭から読者の注意を引いて離さない・・・テンポが速く、始めからアクション満載のすごい冒険がこの物語のストリ。退屈な瞬間など全くない。」パラノマル・ロマンス・ギルド(「変身」評)







英雄たちの探求



(魔術師の環 第一巻)



モーガン・ライス


モーガン・ライス



モーガン・ライスは、ヤングアダルト・シリーズ、「ヴァンパイア・ジャーナル(全10作)」の著者でベストセラー作家。同作品は6ヶ国語に翻訳された。



モーガンの作品には、未来を舞台に世紀末後を描いたアクション・スリラー、「サバイバル・トリロジー」があり、ベストセラーとなった「アリーナ1」、「アリーナ2」はその最初の二冊。



作品には他に、#1ベストセラーとなった壮大なファンタジーシリーズ「魔術師の環」があり、現在10作目まで発表され、続々刊行予定。



読者からのお便りを待っています。www.morganricebooks.com (http://www.morganricebooks.com)をぜひご覧ください。


モーガン・ライス 賞賛の声



「ライスは設定を単純に描き出す次元を超えた描写で最初から読者をストーリーに引きずりこむ・・・とても良い出来栄え、一気に読んでしまう。」-ブラック・ラグーン・レビューズ(「変身」評)



「若い読者にぴったりのストーリー。モーガン・ライスは興味を引くひねりをうまく利かせている・・・新鮮でユニーク、ヤング・アダルト向けの超常的な物語に見られる第一級の要素を持った作品。シリーズは一人の少女を中心に描かれる・・・それもひどくとっぴな!・・・読み易くて、どんどん先に進む・・・ちょっと風変わりなロマンスを読みたい人におすすめ。PG作品。」-ザ・ロマンス・レビューズ(「変身」評)



「冒頭から読者の注意を引いて離さない・・・テンポが速く、始めからアクション満載のすごい冒険がこの物語のストーリー。退屈な瞬間など全くない。」-パラノーマル・ロマンス・ギルド (「変身」評)



「アクション、ロマンス、アドベンチャー、そしてサスペンスがぎっしり詰まっている。このストーリーに触れたら、もう一度恋に落ちる。」- vampirebooksite.com(「変身」評)



「プロットが素晴らしく、特に夜でも閉じることができなくなるタイプの本。最後までわからない劇的な結末で、次に何が起こるか知りたくてすぐに続編が買いたくなるはず。」-ザ・ダラス・エグザミナー(「恋愛」評)



「トワイライトやヴァンパイア・ダイアリーズに匹敵し、最後のページまで読んでしまいたいと思わせる本!アドベンチャー、恋愛、そして吸血鬼にはまっているなら、この本はおあつらえ向きだ!」- Vampirebooksite.com(「変身」評)



「モーガン・ライスは、才能あふれるストーリーテラーであることをまたもや証明してみせた・・・ヴァンパイアやファンタジー・ジャンルの若いファンほか、あらゆる読者に訴えかける作品。最後までわからない、思いがけない結末にショックを受けるだろう。」-ザ・ロマンス・レビューズ(「恋愛」評)


モーガン・ライスの本



魔術師の環

英雄たちの探求(第一巻)

王の行進(第二巻)

ドラゴンの饗宴(第三巻)

名誉の闘い(第四巻)

栄光の誓い(第五巻)

勇者の進撃(第六巻)

剣の儀式(第七巻)

武器の授与(第八巻)

呪文の空(第九巻)

盾の海(第十巻)



サバイバル・トリロジー

アリーナ1:スレーブランナー(第一巻)

アリーナ2:(第二巻)



ヴァンパイア・ジャーナル

変身(第一巻)

恋愛(第二巻)

背信(第三巻)

運命(第四巻)

欲望(第五巻)

婚約(第六巻)

誓約(第七巻)

発見(第八巻)

復活(第九巻)

渇望(第十巻)













オーディオブックで、「魔術師の環」シリーズを聴こう! (https://itunes.apple.com/jp/artist/morgan-rice/id417552527?mt=11&uo=4)



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Copyright © 2012 by Morgan Rice

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本書はフィクションであり、作中の名称、登場人物、社名、団体名、地名、出来事および事件は著者の想像または創作です。実在の人物・故人とは一切関係ありません。


目次



第一章

第二章

第三章

第四章

第五章

第六章

第七章

第八章

第九章

第十章

第十一章

第十二章

第十三章

第十四章

第十五章

第十六章

第十七章

第十八章

第十九章

第二十章

第二十一章

第二十二章

第二十三章

第二十四章

第二十五章

第二十六章

第二十七章

第二十八章


「王冠をいだく頭は、ついに安らかに眠るということがない。」



—ウィリアム・シェークスピア

ヘンリー四世、二部




第一章


少年はリング(環)の西王国の低地でもっとも高い丘に立ち、北に向かって最初の太陽が昇る瞬間を見つめていた。らくだのこぶのようにうねり、広がる緑の丘が、上下しながら谷や峰へと連なるさまを、見える限り遠くまで。昇る日が放つ灼けるようなオレンジ色の光が朝もやの中にとどまり、きらめいて、光に魔法をかけているようで、それが少年の気分と調和していた。少年がこれほど早く起き、家からこれほど離れた場所まで出かけてくるのはめずらしい。 そしてこれほど高い場所に登るのも。父の怒りを買うことはわかっていた。だがこの日はそんなことは気にならなかった。今日は、この14年間彼を押さえつけてきた無数のきまりや仕事を無視した。いつもとは違う日だからだ。彼の運命がやってきたのだ。

マクレオド族が住む南の地方、西王国のソアグリン。ソアと呼ばれるのを好むことで知られていたこの少年は、4人兄弟の末っ子、父親からは一番嫌われていた。ソアはこの日が来るのを予想し、一晩中起きていたのだ。寝返りを打ち、目をかすませながら、最初の太陽が昇るのを心待ちにしていた。こんな日は数年に一度しかやってこない。そしてそれを逃したら、この村に埋もれたまま、一生父親の羊の群れを世話しながら暮らす運命にあるのだ。考えただけで耐えられないことだった。

徴兵の日。それは軍隊が村々を勧誘して回り、王の軍団、リージョンの新兵を選ぶ日だった。ソアはそれだけをずっと待ち望んできた。彼にとって人生とはただ一つ、2つの王国中最高のよろいを身にまとい、選りすぐりの武器を帯する国王の精鋭部隊、シルバー騎士団に入団することだった。まず14歳から19歳までの従者の集団であるリージョンに入らなければシルバー騎士団に入団することはできない。そして貴族や有名な戦士の息子でない限りリージョンに入る方法はなかった。

徴兵の日は唯一の例外だった。何年かに一度、リージョンの人数が少なくなってくると、国王の兵隊が新しい入隊者を求めて国中探し回るのだった。平民からはほとんど選ばれないことを誰もが知っていた。そして実際にリージョンに入隊する者は更に少ないことを。

ソアは立ち尽くし、何か動きがないかと地平線を一心に見つめていた。シルバー騎士団が、この、村へと続く唯一の道を通ることはわかっていた。自分が最初にそれを見きわめる者でありたいと思った。連れてきた羊たちは、山を下りて草がもっと上等の低地に連れて行けとばかりに、周りでうるさく、不平がましい声を一斉にあげて抗議し始めた。ソアは雑音と悪臭を締め出そうとした。集中しなければならない。

何年もの間、羊の群れの世話をし、気にもかけてもらえず重荷ばかり背負わされる、父親や兄たちのしもべとして仕えてきた日々。それを耐えうるものにしてくれたのは、いつかこの地を離れるのだという思いだった。いつか、シルバー騎士団がやってきて、自分を見くびっていた者たちを驚かせ、選ばれる。素早い動きとともに、彼は騎士団の馬車に跳び乗り、全てのことに別れを告げる。

ソアの父親はもちろん、自分のことを真剣にリージョンの候補として考えてくれたことなどない。実際、何かしらかの候補として考えたことさえなかった。代わりに、父は自らの愛情と注意をすべて3人の兄たちに向けていた。一番上の兄は19歳で、他の兄たちはそれぞれ1歳ずつ離れていた。ソアは一番下の兄とも3歳も離れていた。皆、年が近かったためか、それとも互いに似通っていてソアだけが似ていなかったためか、3人はいつも一緒で、ソアの存在など認めてもいないふうだった。

そのうえ、彼らはソアよりも背が高く、体格も良く強かった。ソアは、自分の背が低くはないのはわかっていたが、彼らと並ぶと自分が小柄で、筋肉質の脚も彼らのオーク樽のようなそれに比べればかよわい気がしていた。父親は違いを縮めようとするどころか、むしろそれを楽しんでいるようにさえ見えた。兄たちは家に残して鍛え、その間ソアには羊の世話をさせ、武器を研がせる。話に出たことはなかったが、ソアが出番を待つばかりの人生、兄たちが立派な功績を挙げるのを見ているだけの人生を送ることはいつだって理解していた。父や兄たちが自分たちの思い通りにするのであれば、ただそこに居て、この村に飲み込まれ、家族が要求する助けを与えるのがソアの宿命だった。

もっと悪いことには、兄たちが皮肉にも彼に脅威を感じ、恐らく憎んでもいるのをソアは感じ取っていた。兄たちが自分を見る視線や仕草の一つ一つにそれが見て取れた。どうしてかはわからないが、ソアは彼らに恐れや嫉妬のような何かを感じさせた。 それはたぶん、彼が兄たちとは違っていて、似てもいなければ、話し方にも兄たちの独特の癖がなかったからであろう。着るものさえ違っていた。父は紫や緋色のガウン、金箔を施した武器など、一番良いものを兄たちのために取ってしまい、ソアには最も粗末なぼろの服しか残されていなかった。

それでも、ソアは衣服をぴったり自分に合わせるやり方を見つけ、仕事着の腰に帯を巻いたりして、ある物を最大限に使っていた。夏になったので袖を切り、そよ風が引き締まった腕を撫でていく。そのどれもが、一張羅のぼろ麻のズボンや、すねまで紐で編み上げる粗末な革のブーツに似合っていた。兄たちの靴の革にははるかに及ばないものの、きちんと使えるようにしていた。服は典型的な羊飼いのものだった。

しかしソアの外見はそうではなかった。背が高くほっそりとしていて、気高く誇らしげなあご、高い頬骨や灰色の目は、退役した戦士のようだ。まっすぐな茶色の髪は耳を過ぎた辺り、またその後ろまで波打ち、眼は光を受けた小魚のようにきらきら輝いていた。

兄たちは朝も寝ていることを許され、食事もたっぷり与えられたうえで最高の武器と父親の祝福とともに選抜に出かけるのであろうが、ソアは行くことさえ認められないだろう。ソアは、一度父親とその問題について話そうとしたが、うまくいかなかった。父は即座に話を打ち切ったため、その後は何もしていない。まったく不公平だ。

ソアは、父が用意した宿命を拒む決心を固めた。国王の軍団が見えてきたら、家に走って戻り、父と対決し、父の意向に関わらず軍に自分の存在を知らしめるつもりだ。他の者と同様、選抜に望むのだ。父は止めることができないだろう。そのことを考えると胃が締めつけられるような気がした。最初の太陽が高く昇り、二番目の太陽が昇り始める時、紫色の空に一筋の光を放つミントグリーンの色が見えた。軍団だ。

ソアはまっすぐ立ち上がった。衝撃で髪が逆立っている。地平線にうっすらと馬車の輪郭が現れた。車輪がほこりを空に舞い上げながら。ソアの鼓動が速くなる。2台目だ。金色の馬車が太陽にきらめくのがここからも見える。水中から飛び跳ねる銀色の魚のようだ。

12台目を数えるころには、ソアは待ちきれなくなってきた。動悸がして、羊の存在を生まれて初めて忘れた。ソアは振り向くと丘をころげながら下りた。自分のことを知ってもらうまで決してあきらめないと心に決めた。

*

ソアは止まって息を整えようともせず、丘を走り下り、木々の間を抜けていく。枝でひっかかれても気にも留めない。空き地まで来ると目の前に広がる村を見下ろした。平屋の、白土でできたわらぶき屋根の家がひしめく穏やかな田舎町。そこには数十軒の家庭があるだけだ。煙突から煙が上る。ほとんどの者がもう起きてきて朝食の準備をしている。のどかな土地だ。国王の宮廷からは馬で一日はかかる距離で、立ち寄ろうと思う者もいない。西王国の歯車の一つに過ぎない、リングの端に位置する農村だ。

ソアは村の広場まであともう少し、ちりを蹴り上げながら駆け下りて行った。鶏や犬がソアをよける。湯が沸騰する大がまの前にしゃがんでいた老女がなじった。

「ゆっくり行きなさいよ!」ソアが走り去る時、ちりを火にまき散らしながら金切り声を上げる。

だがソアはペースを落としたりしない。老女のためにも、誰のためにも。脇道を一つ曲がり、また一つ、覚えている道をくねくねと曲がりながら家にたどり着いた。

白土で、傾斜したわらぶき屋根の他の家となんら変わらない、小さな特徴のない住まいだ。ほとんどの家屋同様1つしかない部屋が分かれており、片側が父の寝る場所、もう片側を3人の兄が使っていた。他の家と違うのは、家の裏に鶏舎があることだった。ソアは押しやられて、ここで寝泊まりしている。最初は兄たちと二段ベッドに寝ていたが、彼らは成長してますます意地悪に排他的になり、ソアの居場所はないという素振りを見せてきた。ソアは傷ついたが、今では自分だけのスペースを楽しんでいる。兄たちと離れていられるほうが好い。以前からわかっていたことだが、家族から除け者にされているのがはっきりしただけのことだ。

ソアは正面の扉に向かって走り、止まりもせずに駆け込んだ。

「お父さん!」息を切らせて叫んだ。「シルバー騎士団がやってくるんだ!」

父と3人の兄たちは、朝食の並ぶ食卓を囲んで背中を丸めて座っていた。一番良い服に既に着替えてある。その言葉を聞いて皆いっせいに立ち上がり、ソアを素通りして駆けていく。家から外の道に出るとき、ソアの肩にぶつかって行った。

ソアが後から出て行くと、皆はそこに立ったまま地平線を見つめていた。

「誰も見えないよ。」一番上のドレークが低い声で答えた。誰よりも肩幅があり、他の兄たちと同じように髪を短く刈り込んである。茶色の目と、薄く非難めいた唇をしている。その兄が、いつもと同じようにソアを上からにらみつけた。

「俺もだ。」ドロスが言う。ドレークより1歳下で、いつも兄の側につく。

「来るんだ!」ソアは言い返した。「誓うよ!」

父親がソアのほうを向き、肩をきつくつかんで問いただした。「どうしてわかったんだ?」

「見たんだ。」

「どうやって?どこから?」

ソアは躊躇した。父にはわかっている。ソアが軍団を見つけられるとしたら、山の上しかないということを知っているのだ。どう答えたらよいかソアには分からなくなった。「ぼく・・・丘に登ったんだ。」

「羊と一緒にか?そんなに遠くに行かせたらいけないのはわかっているだろう。」

「でも今日は特別だったから。どうしても見ずにはいられなかったんだ。」

父はしかめっ面をする。

「中に入ってすぐに兄さんたちの剣を取ってくるんだ。それから鞘を磨け。軍団が到着する前に、立派に見えるよう身なりを整えるんだ。」

父はソアとの話が終わると、道に立って外を見ている兄たちのほうを振り返った。

「僕らが選ばれると思うかい?」3人のうち一番下のダースが尋ねる。ソアの3歳上だ。

「選ばれないとしたら、あいつらはどうかしてる。」父親が言った。「今年は人が不足しているらしい。あまり人を採らないできたからな。でなければ、わざわざ来るものか。まっすぐに立っていればいいんだ。3人ともだ。あごを上げたまま胸を突き出す。あいつらの目を直視するんじゃないぞ。 目をそらしてもだめだ。強く、自信たっぷりでいるんだ。弱みを見せちゃいかん。国王のリージョンに入りたかったら、既にその一員のように振舞うんだ。」

「はい、お父さん。」3人の息子はすぐに答え、準備をした。

父は振り返り、ソアをにらみつける。

「そんなところで何をしている?」父は言う。「家に入りなさい!」

ソアは迷いながらそこに立っていた。父親に逆らいたくはないが、話をしなければならない。考えると心臓がどきどきした。言いつけに従って、剣を取り、父に立ち向かうのはそれからにしようと決める。すぐに逆らっても何の役にも立たない。

ソアは走って家に戻り、奥の武器小屋に行って兄たちの剣3本を見つけた。どれも銀の柄を持ち、美しい。父が長年こつこつと働いて贈った貴重なものだ。3本をまとめて取ると、いつもながらその重さに驚く。剣を抱えて家の中を通って引き返す。

兄たちのところへ駆け寄り、それぞれに剣を渡すと、父のほうへ向き直った。 「磨き粉はないのか?」とドレークが言う。

父がとがめるようにソアのほうを向く。が、父が何か言う前にソアが切り出した。「お父さん、お願いです。話があります!」

「磨けと言っただろう・・・」

「お願いです、お父さん!」

父は考えながらにらみ返した。ソアの表情に真剣さを見たのだろう、やがて「何だね?」と言った。

「ぼくも、皆と同じように候補に入れて欲しいんです。リージョンの。」

後ろで兄たちの笑い声が起こった。ソアは顔が赤くなった。

だが父は笑わなかった。それどころか顔が一層険しくなった。

「お前がか?」 と尋ねると、ソアが勢いよくうなずいた。

「ぼくはもう14歳です。資格があります。」

「14歳は最低年齢だ。」ドレークが肩越しに軽蔑したように言う。「もし軍団がお前を採るとしたら、最年少ということになる。5歳も上の俺みたいな者を差しおいてお前を採ると思うか?」

「お前は生意気なんだよ。」とダースが言う。「いつもそうだ。」

ソアは皆に向かって言った。「兄さんたちには聞いていない。」

父のほうに向きなおった。まだ厳しい表情だった。

「お父さん、お願いです。」ソアは言った。「チャンスを下さい。お願いするのはそれだけです。まだ若いのはわかっています。でも時間をかけて自分の力を証明していきます。」

父は首を振った。

「お前は戦士じゃない。兄さんたちとは違うんだ。羊飼いだ。お前の人生はここにある。私と一緒にいるんだ。お前は自分の仕事をうまくやっていく。高望みをするものではない。自分の人生を受け止めて、それを好きになるよう努めなさい。」ソアは自分の人生が目の前で壊れていくのを見て、心臓が張り裂けそうな気がした。だめだ、彼は思った。こんな事あっていい訳がない。

「でもお父さん・・・」

「黙りなさい!」父は叫んだ。その声の鋭さに空気が緊迫した。

「もうたくさんだ。軍団が来る。お前はどきなさい。軍団がここにいる間、自分の行いには十分気をつけるんだ。」

父は一歩進み出ると、見たくもない物ででもあるかのように片手でソアを脇へ押しやった。父の肉付きのよい手がソアの胸を刺した。

ガラガラいう大きな音が沸き起こり、町の人々が家から出てきて道に並んだ。雲状のちりが軍団を先導する。やがて彼らが12台の馬車に乗り、雷鳴のような音を響かせながら到着した。

軍団は大きな集団で突然町に入り、ソアの家の近くに止まった。馬はそこに立ち、荒い鼻息で飛び跳ねていた。ほこりが鎮まるまでしばらくかかった。ソアはよろいや武器をのぞこうと躍起になった。シルバー騎士団をこれほど間近で見るのは初めてだった。心臓が鳴った。

先頭の雄馬に乗っていた軍人が、馬から下りる。ここにいるのは本物のシルバー騎士団のメンバーだ。光る鎖かたびらに包まれ、ベルトには長い剣、ロングソードを携えている。年は30代のように見える。顔には無精ひげ、頬に傷跡があり、鼻が戦闘で曲がった、生身の人間だ。ソアがこれまで見たなかで一番がっしりした男だった。体の幅は他の者の2倍はある。皆を指揮する立場だとわかる落ち着きを備えていた。

彼はほこりっぽい道路に飛び降りた。道端に並んでいる少年たちに近づく時、拍車が鳴った。

村の端から端まで、直立不動の姿勢で期待に胸を膨らませながら立つ少年たちでいっぱいだった。シルバー騎士団への入団は名誉、戦闘、名声、栄光の人生を意味する。土地、肩書、そして富も。それは最高の配偶者をめとり、最も良い土地を与えられ、栄光の人生を歩むことだ。家族にとって名誉となる。リージョンへの入隊はその第一歩だ。

ソアは大きな金色の馬車を観察し、大勢の入隊者を乗せられるのがわかった。王国は広大で、寄るべき町はいくらでもある。自分が選ばれるチャンスは思っていたよりも低いことがわかり、息をのむ。この少年たちに勝たなければならない。相当な強者揃いだ。それに自分の3人の兄たちもいる。気分が落ち込んでいった。

ソアは、軍人が候補者の列を見定めながら静かに歩いてくる時、息をすることもできなかった。彼は通りの向こうの端から始め、ゆっくりと回った。ソアはもちろん他の少年たちをすべて知っていた。家族が軍に送り込みたいと望んでいても、本人は選ばれたくないと密かに思っている少年が数人いることも。怖いのだ。そういう少年たちは良い兵士にはなれない。

ソアは屈辱感で熱くなった。自分は、他の者と同じくらい選ばれる価値があると思った。兄たちが自分よりも年上で体が大きく強い、というだけでは、自分が立ち上がって選ばれる権利がないということにはならないではないか。父への憎しみが膨れ上がり、軍人が近づいたときには、皮膚から飛び出しそうなくらいだった。

軍人は、兄たちの前で初めて足を止めた。彼は兄たちを上から下まで眺め、感心したようだった。手を伸ばして鞘の一つを取ると、硬さを調べるかのように引っ張った。そして笑みを浮かべた。

「まだ戦いで剣を使ったことがないんじゃないか?」とドレークに尋ねた。

ソアはドレークが緊張しているのを生まれて初めて見て、つばを飲み込んだ。

「いえ、ありません、上官どの。ですが、練習では何度も使ったことがあります。ですから・・・」

「練習では!」

軍人は大きな声で笑い、他の兵士たちのほうを向いた。皆ドレークの顔を見て笑い始めた。

ドレークは顔が真っ赤になった。ドレークが恥ずかしい思いをしているのは初めて見た。いつもはドレークが皆に恥ずかしい思いをさせていたから。

「それなら敵に君を恐れるように、と必ず告げよう。剣を練習で扱ってきたから、と!」

兵士たちはまた笑った。

軍人はそれから他の兄たちのほうを向き、「同じ家から3人の息子か。」とひげを撫でながら言った。「これは使えるな。みな良い体格をしている。実戦がまだだがな。選ばれたら大変な訓練が必要だぞ。」

そこで彼はやめた。

「場所は用意できそうだな。」

彼は後ろの車両に向かってうなずいた。

「乗るんだ。速く。私の気が変わる前にな。」

ソアの3人の兄は馬車へ向かって一目散に走って行った。父も走っていくのにソアは気づいた。

皆が行くのを見ながらすっかり意気消沈してしまった。

軍人は振り返り、次の家へと進んだ。ソアはもう我慢できなかった。

「上官どの!」ソアが大声で言った。

父がこちらを向いてにらんだ。ソアはもはや気にしない。

軍人はこちらに背中を向けたまま立ち止まり、それからゆっくりと振り返った。

ソアは心臓をどきどきさせながら2歩前へ進み、できる限り胸を突き出し、

「上官どのはまだ私を候補に入れていらっしゃいません」と言った。

軍人は驚いて、冗談ではないかと思いながらソアを上から下まで眺めた。

「入れていなかったと?」聞きながら彼は吹き出した。

兵士たちも笑った。だがソアは気に留めなかった。今こそ自分のための瞬間だ。この時を逃したらもう先はない。

「リージョンに入隊したいです!」ソアは言った。

軍人がソアに歩み寄った。

「知っているかね?」

彼は面白がっているようだった。

「“もうすぐ14歳になるのかな?」

「もうなりました、上官どの。2週間前に。」

「2週間前!」

軍人は甲高い声を上げて笑った。背後の兵士たちもだ。

「それならば、敵は君を見て震え上がることだろう。」

ソアは屈辱で熱くなるのを感じた。何かしなければ。こんな形で終わらせることはできない。軍人は背を向けて立ち去ろうとしたが、ソアはそうさせなかった。

ソアは前に進み出て、大声で言った。「上官どのは間違えておられます!」

皆が恐怖のあまり息をのんだとき、軍人が止まってゆっくりとこちらを向いた。

今度は顔が険しい。

「なんてばかな子だ。」父はそう言ってソアの肩をつかんだ。「家に入っていなさい!」

「入るものか!」ソアは父の手を振り払いながら叫んだ。

軍人がソアのほうへ歩み寄ったので、父は後ろへ下がった。

「シルバー騎士団を侮辱した場合の罰を知っているのか?」ぴしゃりと言った。

ソアの心臓が激しく鼓動する。それでも後には引けないと思った。

「お許しください、上官どの。」父が言った。「まだ子どもですから・・・」

「そなたに話しているのではない。」と軍人は言った。容赦のない目つきでソアの父を退けた。

軍人はソアのほうを向き、「答えなさい!」と言った。

ソアは息が詰まって声も出ない。こんなはずじゃなかった。

「シルバー騎士団を侮辱するのは国王陛下を侮辱することである。」ソアは従順に覚えていたことを唱えた

「いかにも」軍人が言った。「つまり、私がそう決めたら鞭打ちの刑40回を受けることになる。」

「侮辱するなんて考えてもいません、上官どの。」ソアは言った。「選ばれたかっただけです。お願いです。ずっとそれが夢だったのです。お願いします。入隊させてください。」

軍人は立ち尽くし、次第に表情が和らいでいった。しばらくしてから首を振った。 「君はまだ若い。気高い心を持っているが、まだ時期尚早だ。乳離れしたら戻ってきなさい。」

それだけ言うと彼は振り向いて、他の少年には目もくれずに行ってしまった。そして馬に素早く乗り込んだ。

ソアはがっかりして立ったまま、軍団が行動を起こすのを見つめた。到着した時と同じ速さで去って行った。

最後にソアが見たのは、後部の馬車に座っている兄たちだった。とがめるような目で嘲りながらこちらを見ていた。ソアの目の前で、馬車で連れて行かれるのだった。ここから、より良い人生へと。

心の中で、ソアは死んでしまいたい気持ちだった。

彼を包んでいた高揚した気持ちが引いていくのと同時に、村人たちはそれぞれの家へ帰って行った。

「お前はどれほどばかなことをしたかわかっているのか?」父がソアの肩をつかみながらきつく言った。「兄さんたちのチャンスをつぶすことになったかも知れないのをわかっているか?」

ソアは父親の手を乱暴に振りほどいた。父は再び手を伸ばし、ソアの顔を手の甲で叩いた。

刺すような痛みを感じ、父をにらみ返した。生まれて初めて、父に殴り返したい気持ちが自分の中に芽生えたが、それを抑えた。

「羊をつかまえて戻しなさい。今すぐに!戻っても食事があると思うな。今晩は夕食抜きだ。自分のしたことをよく考えてみなさい。」

「もう戻らないかも知れないさ!」ソアはそう叫ぶと丘に向かって家を出て行った。

「ソア!」父が叫ぶのを村人たちが立ち止まって見ていた。

ソアは早足で歩き、そして走り始めた。ここからできるだけ遠くへ行ってしまいたかった。夢がすべて打ち砕かれ、泣いて、自分の涙が頬を伝っていることにさえ気づいていなかった。




第二章


ソアは、怒りではらわたが煮えくり返る思いを抱えながら丘を何時間もさまよった後、選んだ丘の上に腰をおろした。脚の上で腕を組み、地平線を眺めた。馬車が消えていくのを、時間を経てもなお残る雲状のほこりを見つめた。

もう軍団が村にやってくることはないだろう。今となっては、自分はこの先何年も次のチャンスを待ちながらこの村にとどまる運命にある。たとえそれが二度とやってこないとしても。もし父が許してくれさえしたら。これからは家で父と二人だけだ。父は自分にありったけの怒りをぶつけてくるだろう。自分はこれからも父親のしもべであり続けるだろう。そして年月が経ち、自分もやがて父のようになるのだろう。兄たちが栄光と名声を手に入れる一方で、ここに埋もれ、つまらない日々を送る。血管が屈辱で焼けるようだ。これは自分が送るべき人生ではないということが彼にはわかっていた。

ソアは自分に何ができるか、どうしたら運命を変えられるか知恵を絞って考えたが、何も浮かばなかった。これが、人生が自分に配ったカードなのだ。

数時間座ったままだったが、やがて落胆した様子で立ち上がり、歩き慣れた丘を横切りながらずっと高く登り始めた。否応なく、羊の群れのいる高い丘のほうへと漂うようように戻って行った。登っていく時に一番目の太陽は沈み、二番目の太陽が最も高い位置につき、緑がかった色合いを投げかけていた。ソアは時間をかけてゆっくり歩きながら、特に考えもなく、長年使って革のグリップがすり切れた投石具を腰から外した。腰にくくりつけてある袋に手を伸ばし、集めた石を手で探った。良い小川から拾ってきた、滑らかな石で、鳥や、また時にはねずみに当てることもあった。長年の間に染み付いた習慣だ。最初は何にも当たらなかったが、そのうち動く標的をしとめたことも一度あった。それからソアのねらいは確実になった。今では投石はソアの一部となっていた。それに怒りをいくらか解消するのに役立った。兄たちは丸太に剣を突き通すことができるだろうが、石で飛ぶ鳥を落とすことはできない。

ソアは無心で投石具に石を置き、背中をそらせると、父に向かってそうするかのように全力で投げた。遠くの枝に当たって、ばっさりと落ちた。動いている動物を殺すこともできるのに気づいてからは、自分の持つ力が怖くなり、何も傷つけたくないと思って動物をねらうことはやめた。今では的は枝だ。が、きつねが羊の群れの後をつけてきたときは別だ。やがてきつねは近づかないことを学んだ。そのためソアの羊は村で一番安全が保証されている。

ソアは兄たちのことを、今彼らがどこにいるのかを考え、腹が立った。馬車で丸1日行けば王の宮廷に到着するだろう。ソアにはそれが見えるようだ。盛大なファンファーレと共に到着し、美しい衣服を身にまとった人々が彼らを迎える。戦士たちも挨拶を返す。シルバー騎士団のメンバーたちだ。彼らは迎え入れられ、リージョンの兵舎内に住む場所を、王の訓練場を、最高の武器を与えられる。それぞれ有名な騎士の見習いとして任命される。いつかは彼ら自身も騎士となり、自分の馬、紋章、そして見習い騎士を持つことになる。祝祭にはすべて参加し、王の食卓で食事をとる。特権を与えられた生活。だが、それはソアの手をすり抜けた。

ソアは気分が悪くなってきたが、それを意識から消し去ろうとした。だができなかった。彼の一部が、どこか深いところで自分に向かって叫んでいた。あきらめるな、もっと素晴らしい運命が用意されているのだ、と彼に言う。それが何かはわからなかったが、ここにないことだけはわかる。ソアは、自分は他の人と違っていると感じていた。特別なのかも知れないとさえ。誰も理解しえない何か。誰もが過小評価している彼の何か。

ソアは最も高い丘に着いたところで羊の群れを見つけた。訓練が行き届いているので、皆ばらばらにならずに、手当たり次第に満足そうに草を食んでいた。羊たちの背中に彼自身がつけた赤い印を探して数を数えた。数え終わった瞬間、凍りついた。1頭足りない。

何度も数えなおした。やはり1頭いない。信じられない思いだった。

ソアは羊を見失ったことなど今まで一度もない。 父はこの償いさえさせないだろう。もっと嫌なのは、羊が荒野に一頭だけで迷い、危険にさらされているということだった。罪のないものが苦しむのは見たくなかった。

ソアは頂上まで走り、はるか遠く、いくつもの丘の向こうの地平線をくまなく探し、見つけた。一頭の、背に赤い印をつけた羊を。群れのなかでも暴れんぼうの羊だ。逃げ出しただけでなく、よりによって西の方角、暗黒の森へ向かったことがわかり、ソアの心は沈んだ。

ソアは息をのんだ。暗黒の森は禁断の場所だ。羊だけでなく、人間にとっても。村境の向こうへは、歩き始めた頃から決して行ってはいけないと知っていた。もちろん行ったことなどない。道もなく、邪悪な動物の住む森に入ることは死を意味すると言い伝えられてきた。

ソアは考えをめぐらしながら暗くなりつつある空を見上げた。自分の羊を行かせるわけにはいかない。素早く動けば、暗くなるまでに連れ戻すことができるかも知れない。

一度だけ後ろを振り返ったのを最後に、ソアは西へ、暗黒の森へと全力で疾走した。空には暗雲が立ち込めている。沈み込む心とは裏腹に、足はどんどん前へ進む。いくらそうしたくても、振り返るものかとソアは思った。悪夢へ向かって走るようだった。

*

ソアは丘も止まることなく走り下り、空が暗く覆われた暗黒の森へと入って行った。森の入り口で道は途切れている。道のない領域へと入って行く。足の下で夏の葉が砕ける音がした。

森に入った瞬間、暗闇に包まれた。光は頭上高くそびえる松の木に遮られている。中は寒かった。森の境を超えるとき、寒気がした。暗闇のせいでも、寒さのせいでもない。何か別の理由によるものだ。何とも言えないもの。何かに見られている、そんな感覚だ。

ソアは、風に揺れてきしる、こぶだらけで、自分よりも太い古木の枝を見上げた。森に入ってからまだ五十歩というところで、奇妙な、動物の音を聞いた。振り返ると、自分が通ってきた入り口はもう見えない。早くも出口が存在しないような気になっていた。ソアはためらった。

暗黒の森はいつも町の外側、そしてソアの意識の外にあった。深く、神秘的な何か。森に迷い込んだ羊を追うことは、今だかつてどの羊飼いもしたことがなかった。ソアの父でさえそうだった。この場所にまつわる言い伝えは暗く、根強かった。

だが今日は何かが違った。ソアはもはやそれが気にならず、風に注意を向けていた。彼の中に、境界を広げ、家からできるだけ遠くへ行きたい、自分がどこへ連れて行かれるかは人生に任せようという思いがあった。

ソアは更に奥へと進んだ後、どちらへ進んだらよいかわからず足を止めた。足跡や、羊が通ったと思われる場所の枝が曲がっているのに気づき、そちらへ向きを変えた。しばらくしてまた曲がった。

1時間もしないうち、ソアは迷って途方に暮れてしまった。来た方角を思い出そうとしたが、もうわからない。不安で胃が落ち着かない。が、唯一の出口は前方にあると思い、進み続けた。

ソアは遠くに一筋の光を見出し、そこへ向かった。気づくと、わずかな開けた場所の手前に来ていた。その端で足を止め、根が生えたように動けなくなってしまった。自分の目が信じられなかった。

ソアに背を向けて、長く青いサテンのガウンをまとった男が目の前に立っていた。いや、人間ではない。立った位置からソアはそう感じ取った。別の何かだ。ドルイドかも知れない。背がすらりと高く、頭はフードで覆われ、微動だにしなかった。この世に注意を払うことなどないかのように。

ソアはどうしてよいかわからずに立ち尽くしていた。ドルイドは話に聞いていても、出会ったことはなかった。ガウンにつけられた印、丁寧な金の縁取りから、ただのドルイドではない。王家の印だ。国王の宮廷のものだ。ソアには理解できなかった。王家のドルイドがここで何をしているのだろう?

永遠のようにも思われる時間が経った後、ドルイドがゆっくりと振り返り、ソアに顔を向けた。ソアも彼の顔を認め、息が止まりそうになった。王国で最も知られた者の一人、国王のドルイドだったのだ。何世紀もの間、西の王国の王たちに相談相手として仕えてきたアルゴンだった。宮廷を遠く離れた暗黒の森の中で何をしていたのか、謎だった。ソアは自分の想像なのではないかと思った。

「今目にしていることは、思い違いなどではない。」アルゴンはソアを真っ直ぐに見つめながら言った。

まるで木々が話しているような、深みのある、遠い昔から響いてくるような声だった。彼の大きく透んだ目は、ソアを見通し、貫くようだった。ソアは、太陽の正面に立っているかのように、アルゴンが放つ強力なエネルギーを感じた。

ソアは直ちにひざまづき、頭を垂れた。

「わが君」と彼は言った。「邪魔をいたしました。申し訳ありません。」

国王の相談役への不敬は投獄または死に値する。ソアは生まれたときからそう教え込まれていた。

「小年よ、立ちなさい。」アルゴンは言った。「ひざまづいたほうが良いなら、私からそう言っていたであろう。」

ソアはゆっくりと立ち上がり、彼のほうを見た。アルゴンは数歩近寄ると、立ったままソアが居心地悪くなるほど見つめた。

「そなたは母親の目をしている。」とアルゴンは言った。

ソアは驚いた。自分の母親に会ったことも、父親以外に母のことを知っている者に会ったこともなかったからだ。母は出産の時に亡くなったと聞いていた。ソアはいつもそのことで罪の意識を感じていた。家族が自分を嫌うのもそのためだと思っていた。

「誰かと勘違いをされているのではないかと思います。」ソアは言った。「私には母はおりません。」

「母がいないと?」アルゴンは微笑みながら尋ねた。「男親だけで生まれたというのか?」

「わが君、母は出産のときに亡くなったという意味でございます。私のことを誰かとお間違えではと思います。」

「そなたはマクレオド族のソアグリン、4人兄弟の末っ子、選ばれなかった者であろう。」

ソアは目を大きく見開いた。どう解釈したらよいのか分からなかった。アルゴンのような位の高い者が自分のことを知っているとは。自分の理解を超えたことだった。村の外に自分のことを知っている者がいるとは考えたこともなかった。

「どうして・・・お分かりになるのですか?」

アルゴンは微笑んだが、答えなかった。

ソアは急に好奇心が湧いてきた。

「どうして・・・」ソアは言いかけたが、言葉に詰まった。「どうして私の母を知っておいでなのですか? どのように母に会われたのですか? 会ったことがおありですか? どんな人だったのですか?」

アルゴンは振り返り、歩き去った。

「次に会った時に質問しなさい。」と言った。

ソアは不思議な気持ちでアルゴンを見送った。目のくらむような、不思議な出会いだった。あっという間の出来事だった。アルゴンを行かせまいとして、急いで後を追いかけた。

「ここで何をなさっていたのですか?」ソアは急いで追いつこうとしながら尋ねた。アルゴンは古い象牙の道具を使って、速く歩いているように見えた。 「私を待っておられたのではありませんよね?」

「他に誰を待っていたというのじゃ?」アルゴンが尋ねた。

ソアは追いつくのに必死だった。開けた場所を後に、森に入って行った。

「なぜ私なのですか? なぜ私が来るとご存じだったのですか? 何が目的だったのですか?」

「質問が多い。」アルゴンは言った。「そなたばかりが話しているではないか。人の話も聞くのじゃ。」

ソアは、なるべくしゃべらないように努めながら、アルゴンの後を追い、深い森の中を通っていく。

「はぐれた羊の後を追ってきたのじゃな。」アルゴンが言う。「見上げたものだ。しかし時間の無駄であったな。生き伸びられないであろう。」

ソアは目を見開いた。

「どうしておわかりになるのです?」

「そなたが、少なくとも今はまだ知らぬ世界のこともわかるのじゃよ。」

ソアは、追いつこうとしながら考えた。

「話を聞こうとはしないのだな。それがそなたという者なのだ。頑固で。母親と同じだ。羊を助けようと追い続けるのであろう。」

ソアは、自分の考えをアルゴンに読まれて赤くなった。

「そなたは元気の良い若者じゃ。」アルゴンは更に言う。「意志が強く、誇り高い。良い性質だが、いつかそれで足をすくわれる。」

アルゴンは苔の生えた尾根を登り始めた。ソアは後を追う。

「国王のリージョンに入りたいのであろう。」アルゴンが言った。

「そうです!」ソアは興奮して答えた。「私にもチャンスはあるでしょうか?あなたが実現させることはできますか?」

アルゴンは笑った。深い、うつろな声にソアの背筋が寒くなる。

「わしは何でも起こせるし、何も起こせないとも言える。そなたの運命は既に決まっているのじゃ。選ぶのはそなた次第だが。」

ソアには理解できなかった。

尾根のてっぺんに着くと、アルゴンはソアのほうに顔を向けた。ほんの数フィートしか離れていなかったので、アルゴンのエネルギーがソアを焼き尽くすようだった。

「そなたの運命は重要なのだ。」アルゴンは言った。「運命を捨ててはいけない。」

ソアは目を大きく開いた。運命?重要?誇らしい気持ちがこみ上げてくるのを感じた。

「なぞかけのような話し方をなさるので、私にはよくわかりません。もう少し説明してください。」

突然、アルゴンが消えた。

ソアには信じられなかった。四方を見回し、耳をそばだて、考えた。全部想像だったのだろうか?妄想だろうか?

ソアは振り向いて木を調べた。この尾根の高みからはより遠くまで見ることができた。遠くに動くものが見えた。音を聞き、自分の羊だと確信した。

苔だらけの尾根を転げ下り、音のする方へ森を戻って行った。進みながら、アラゴンとの出会いがソアの頭から離れることはなかった。現実に起きたこととは思えなかった。ここで国王のドルイドが何をしていたのか、なぜここなのか? 彼は自分を待っていた。なぜだ?自分の運命とは何のことを言っていたのか?

なぞを解こうとすればするほど、わからなくなった。アラゴンは、進んではいけないと警告しながら、同時にそうするよう誘惑した。ソアは進みながら、何か重大なことが起こるような虫の知らせを感じていた。

曲がり角を回ったとき、眼前の光景を見て足が止まった。一瞬にして、悪夢が現実のものとなった。毛が逆立ち、この暗黒の森に足を踏み入れるという重大な過ちを犯したことを悟った。

ソアと向かい合い、30歩と離れていない場所にサイボルドがいた。四足で立ち、のそりのそりと動く馬ほどの大きさの筋肉質の体は、暗黒の森、いや恐らく王国中で最も恐れられている動物のそれだった。ソアは実物を見たことはなかったが、話に聞いたことはあった。ライオンに似ているが、ずっと大きく、体は深い緋色、目は黄色く光っていると。赤い色は、あどけない子どもたちの血の色からきていると言うのが伝説だった。ソアは今までに何回かこの動物を見たという話を聞いたが、どれも疑わしいとも聞いていた。それはこの動物に出会って生きて帰った者がいなかったからであろう。サイボルドを森の神であり、何かの前兆だと考える者もいる。何の前兆なのか、ソアには全く考えが及ばない。

ソアは慎重に後ろへ下がった。

サイボルドは巨大なあごを半分開けながら立ち、牙からは唾液を垂らし、黄色い目でこちらを見ていた。口にはソアの迷子の羊をくわえて。羊は叫び声を上げ、体の半分を牙に切り裂かれて逆さにぶら下がっている。虫の息だ。サイボルドは獲物をゆっくりと楽しみ、拷問に喜びを見出しているかに見えた。

叫びを聞くのはソアには耐えられなかった。羊は震え、無力で、ソアは責任を感じた。

ソアは振り返って逃げたい衝動にかられたが、それが無駄だということもわかっていた。この動物は何よりも走るのが速いだろう。逃げたところで相手をより大胆にさせるだけだ。それに羊を見殺しにすることはできなかった。

立ったまま恐怖に凍りつきながら、何か行動を起こさねばならないことはわかっていた。ソアの運動神経にバトンが渡った。ゆっくりと袋に手を伸ばし、石を出すと、投石具にはめた。震える手でそれを引き、一歩前に出て石を投げた。空中を伝い、標的に当たった。完璧な投石だった。羊の目玉に当たり、脳を貫通した。

羊はぐったりとなった。死んだのだ。ソアは羊を苦しみから解放したのだった。

サイボルドは、自分のおもちゃをソアが殺したことに怒り、にらみつけてきた。巨大なあごをゆっくりと開け、羊を落とした。羊はバサッという音を立てて地面に落ちた。サイボルドはソアにねらいを定めた。

深く、邪悪な声を腹の底から出してうなった。サイボルドがソアに向かって歩き始めた時、ソアは心臓をどきどきさせながら次の石を投石具に置き、手を置いて再び撃つ準備をした。

サイボルドが疾走を始めた。それはソアが今まで見た中で何よりも速い動きだった。ソアは一歩前に進み出ると、サイボルドが自分のところに到達する前に次の石を投げる時間はないのを知りつつ、当たることを願いながら石を放った。

石は右目に命中し、相手を倒した。すごい投石だった。もっと小さな動物たちならばひれ伏すほどの。

だが、相手は小さな生き物などではなかった。獣を止めることはできない。負った怪我に金切り声を上げながらも、スピードを緩めることさえない。目を片方失い、脳に石を残し、それでも一心にソアを襲い続けた。ソアにできることはなかった。

一瞬の後に、獣はソアの上にいた。大きな爪でソアの肩を強打した。

ソアは叫んで倒れた。3本のナイフで肉を切り裂かれたようだった。熱い血がその瞬間どっと流れた。

獣はソアを四足で地面に押さえつけた。象が胸の上に立っているかのような、とてつもない体重だ。ソアは肋骨が砕かれるのを感じた。

サイボルドは頭を反らせ、口を大きく開けて牙を見せたあと、ソアの喉元めがけて下を向いた。

その瞬間、ソアは手を伸ばしてサイボルドの首をつかんだ。硬い筋肉を握るようなものだ。ソアはしがみつくこともほとんどできなかった。牙が下りてきた時、腕が震え始めた。ソアは顔一面にサイボルドの熱い息がかかるのを、首に唾液が流れてくるのを感じた。獣の胸の奥からごろごろ言う音が聞こえ、ソアの耳は燃えるようだった。死ぬのだ、と思った。

ソアは目を閉じた。

神様、お願いします。力をお与えください。この生き物と戦わせてください。お願いです。何でも言うことを聞きます。受けた恩に深く感謝いたします。

その時何かが起きた。ソアは体の中にとてつもない熱が起こり、血管を通じて流れるのを感じた。エネルギー場が自分自身の中をすべて駆け回っているようだった。目を開け、驚くべきものを見た。自分の手のひらから黄色い光が放出し、獣の喉に抵抗できるだけの驚異的な力を得て相手を寄せ付けなかった。

ソアは抵抗を続け、ついには相手を押し返した。力がみなぎり、砲弾のようなエネルギーを感じた。その直後にサイボルドを少なくとも10メートルは後ろに飛ばし、獣は背中から地面に落ちた。

ソアは起き上がった。何が起きたのかわからなかった。

獣は体勢を立て直し、憤然と突進してきた。今度はソアも前と違う。エネルギーが彼の全身を伝い、今までにないパワーを感じている。

サイボルドが空中に飛び上がった時、ソアは身をかがめ相手の腹をつかんで投げ、勢いにまかせて飛ばした。

獣は森の間を飛んで行き、木にぶつかって地面に落ちた。

ソアは驚いて振り返った。自分は今サイボルドを投げたのか?

獣は2回瞬きをした後、ソアを見て再び挑んできた。

今度は、獣がとびかかる瞬間ソアが喉元をつかんだ。双方とも地面に倒れこみ、サイボルドがソアにまたがった。が、ソアが転がり、獣の上になって相手を抑え、両手で窒息させようとした。獣は頭を上げて牙で噛み付こうとし続けたが、的を外した。ソアは新たな力を感じて手で押さえつけ、相手を離さなかった。エネルギーが自分の中を流れるのに任せると、驚くべきことに獣に勝る力を感じた。

サイボルドを窒息させ、死に追いやった。獣はぐったりとなった。

ソアはその後も1分間は手を離さなかった。

彼は息を切らしてゆっくりと立ち上がり、目を見開いて見下ろし、傷ついた自分の腕を抱きしめた。今起きたことが信じられなかった。この僕が、ソアが、サイボルドを殺したのか?

彼は、今日というこの日、これが印なのだと感じた。 重大なことが起きたように思えた。王国で最も知られ、最も恐れられている動物をし止めたのだ。たった一人で。武器を使わずに。本当のこととは思えなかった。誰も信じやしない。

彼はそこに立ち、めまいを感じながら、自分を圧倒したのは一体何の力だったのだろうと考えた。それは何を意味するのか、自分は本当は何者なのか。このような力を持つことで知られているのはドルイドだけだ。父も母もドルイドではない。自分がそうである訳がない。

それともそうなのだろうか?

ソアは突然背後に人の気配を感じた。振り返るとアルゴンがそこに立ち、動物を見下ろしていた。

「どうやってここまで来られたのですか?」ソアは驚いて尋ねた。

アルゴンは彼を無視した。

「今起きたことをご覧になったのですか?」ソアはいまだ信じられない思いで尋ねた。「自分でもどうやったのかわからないんです。」

「わかっておるのじゃろう。」アルゴンが答えた。「 自分の奥深くで。そなたは他の者とは違うのだ。」

「まるで・・・力がほとばしるようでした。」ソアは言った。「自分が持っているとは知らなかった力のような。」

「エネルギー場じゃな。」アルゴンが言う。「いつかよくわかる日が来る。それをコントロールすることさえできるようになるかも知れん。」

ソアは肩をつかんだ。耐え難い痛みだ。見下ろすと、手も血だらけだ。めまいがして、もし助けがなかったらどうなっていただろうと考えた。

アルゴンは3歩前に進んだ。手を伸ばしてソアの空いているほうの手をつかみ、傷の上にしっかりと載せた。そのままの状態で背を反らせ、目を閉じた。

ソアは腕に温かいものが流れるのを感じた。数秒でべとべとしていた血が乾き、痛みが消えていくのがわかった。

彼は見下ろし、信じられなかった。怪我が治っている。残ったのは爪で切られてついた3つの傷痕だけだった。それも傷が閉じていて、数日経過したように見える。血はもう出ない。

ソアはびっくりしてアルゴンを見た。

「どうやったらできるんですか?」彼は尋ねた。

アルゴンは微笑んだ。

「何もしておらん。そなたがしたのじゃ。わしはただそなたの力に指示をしたまでだ。」

「でも僕には治す力などありません。」ソアは当惑して答えた。

「そうかな?」アルゴンは答える。

「僕にはわかりません。起きていることの意味が全くわからないんです。」ソアはますますもどかしく思って言った。「どうか教えてください。」

アルゴンは目をそらした。

「時間をかけて理解していかなければならないこともある。」

ソアは何か思いついた。

「これは、私が王のリージョンに入隊できるということなのでしょうか?」興奮して尋ねた。「サイボルドを倒せるのなら、他の少年に引けを取らないでしょう。」

「確かにそうだろう。」とアルゴンは答えた。

「でも軍の人たちは兄たちを選んで、僕は選ばれませんでした。」

「そなたの兄たちにはこの獣は倒せなかっただろう。」

ソアは考えながら、見返した。

「でも、軍の人たちは僕のことを拒否したんです。どうしたら僕は入隊できるのでしょう?」

「いつから戦士は招待状が必要になったのじゃ?」アルゴンが尋ねた。

この言葉は深く染み込んだ。ソアは体が温かくなってくるのを感じた。

「招かれなくても、行けば良いということですか?」

アルゴンは微笑んだ。

「そなたの運命を切り開くのはそなたじゃ。他の誰でもない。」

ソアが瞬きをするや否や、アルゴンは消えていた。

ソアには信じられなかった。森のすべての方角を見回したが、アルゴンは跡形もなく消えていた。

「ここじゃ。」声が聞こえた。

ソアが振り返ると、巨大な岩が見えた。声はその上の方からすると気づき、すぐにそこへ登った。てっぺんに着いてもアルゴンの姿が見えず、当惑した。

が、この高みからは暗黒の森の木々の上から景色が見渡せた。暗黒の森の端が見え、二番目の太陽が深い緑色の中に沈んでいくのが、そしてその先に王の宮廷へと続く道が見えた。

「そなたはその道を通ることもできる。」声がした。「そうしようと思えば。」

ソアはぐるりと回ってみたが、何も見えなかった。声がこだましているだけだ。だがアルゴンがそこに、どこかにいて、彼をけしかけていることはわかっていた。そして心の底で、アルゴンの言うことが正しいのを感じていた。

もう迷うこともなく、ソアは岩を急いで下り、森を抜けて遠くの道へと進み始めた。自分の運命へと、全速力で。




第三章


マッギル国王は恰幅が良く、胸板が厚い。白髪交じりのあごひげが豊かで、広い額には数多く経てきた戦いでしわが刻まれている。王妃とともに城壁の上部に立ち、盛大な日中の祭事を見渡していた。王土は、国王のもとに栄華をきわめ、視野を埋め尽くすほどの広がりを見せている。繁栄する都市は古代からの石の要塞に囲まれていた。国王の宮廷。曲がりくねる迷路のような道でつながれて、様々な形と大きさの石の建造物が建っていた。それらは、戦士、番人、馬、シルバー騎士団、リージョン、衛兵、兵舎、武器庫、兵器工場、そして要塞都市の中に住むことを選んだ大勢の人々のための何百もの住居などである。こうした建物の間には、数エーカーもの草地、国王の庭園、石で縁取られた広場、噴水が広がっていた。宮廷は、国王の父君、そのまた父君によって何世紀にもわたり改良が行われてきた。そして今その栄華の頂点にある。リングの西王国中、最も安全なとりでであることは疑う余地がない。

マッギルは、あらゆる王たちが知る限り最も優秀かつ忠実な戦士に恵まれていた。攻撃をあえてしようという国もいまだかつてなかった。7代目として王位を継承したマッギル国王は、32年間国をうまく治めてきた賢く、良い王であった。彼の世に国は非常に繁栄し、軍隊の規模は2倍に拡大、都市が拡張した。民は豊かになり、国民から不満の声が聞かれることなどなかった。気前の良い王として知られ、彼が王位に就いてからの賜物と平和にあふれた世は、それまでにはなかった。

それは、逆にマッギルが夜眠れない理由でもあった。マッギルは歴史を知っていた。どの時代にも、これほど戦争のない時が長く続いたことはなかった。。もし攻撃を受けたらと考えることはもはやなく、むしろ、いつ受けるかと考えていた。そしてどこからか。

最も脅威に感じていたのは無論、リングの外である。辺境の地、ワイルド(荒地)を統治し、峡谷の向こう側、リングの外の民をすべて従属させた蛮人の帝国からの攻撃である。マッギルとそれ以前の7代の国王にとって、荒地が直接の脅威となったことはなかった。それは完璧な円を描くこの王国独特の地形、リング(環)によるものであった。幅1マイルもの深い峡谷によって外界と遮断され、マッギル1世の時代から活発なエネルギーの盾に守られて、ワイルドを恐れる理由などほとんどなかった。蛮人は何度も攻撃や盾の通過、峡谷の横断を試みたが、一度として成功したことはなかった。リングの内側にいる限り、彼も彼の民も外からの脅威はありえなかった。

が、それは内側からの脅威がないということではない。このところマッギルがまんじりともせずにいるのはそのためであった。それが日中、長女の結婚のための祝祭を行った目的であった。まさに、敵をなだめ、リングの東・西王国間の心もとない平和を維持するためにお膳立てされた結婚であった。

リングは、それぞれの方角に優に500マイルの幅があり、真ん中を山脈で仕切られて分断されている。これが高原である。高原の反対側に東王国があり、リングのもう半分を統治していた。宿敵マクラウド家が数世紀にわたってこの国を治め、マッギル家との不安定な休戦状態を終わらせようと常に画策してきた。マクラウド家は不満を抱えており、自分たちの王国が不毛の側の土地にあると信じ、その持分に満足していなかった。そして少なくとも半分はマッギル家に属するはずの山岳地帯全体の所有権を主張し、高原をめぐって争っていた。国境をめぐる小競り合いは絶え間なく、侵略の恐れも常にあった。

マッギルはそうしたすべてを思案し、悩んでいた。マクラウドは満足するべきである。峡谷に守られてリング内で安全が保証され、選んだ土地に国を構え、恐れるものもない。所有するリングの半分に満足すべきではないか。マッギルが軍隊を非常に強化してきたことが、マクラウドが歴史上初めて侵略を試みない唯一の理由だ。しかし、マッギルは賢い王であったので、地平線の向こう側に何かを感じ取った。この平和が長くは続かないことを知っていた。そのため自分の長女とマクラウド家の長男との結婚を決め、その日がやってきたのだった。

自分の真下には、王国の隅々から、高原の両側から来た、明るい色のチュニックを着た何千人もの召使たちが見えた。この要塞都市に、ほぼリング全体の人間が入って来ている。この国の民は、すべてが繁栄と国力を示すようにとの命を受け、何ヶ月も準備を進めてきた。これは結婚のためだけではない。マクラウドへのメッセージを送る日でもあるのだ。

マッギルは、城壁、街路、都市の外壁に沿って、戦略的に配置された何百人もの兵士の閲兵を行った。兵士の数は必要を上回っていたが、それで満足だった。国力を顕示するのが希望だった。その一方で緊張もしていた。小競り合いが起こる環境が整っている。いずれの側にも、酒にあおられてけんかを始める、短気な者のいないことを願った。騎馬試合場、運動場に目をやり、競技、騎馬試合などのあらゆる祭事が行われるこれからの日々に思いを馳せた。闘いは激しくなるだろう。マクラウドが小規模な軍隊を引き連れてくることは必至で、騎馬試合、レスリング、その他全ての競技が意味を持つだろう。一つでも不首尾に終われば、争いに発展する可能性もある。

「陛下?」

やわらかい手の感触を自分の手に感じ、王妃クレアのほうを向いた。彼が知る限り、最も美しい女性である。王位についてからこのかた幸福な結婚生活を送り、3人の男子を含む5人の子どもに恵まれた。王妃が不平を漏らしたことは一度もなく、王が最も信頼する相談相手にもなっている。年月を経て、王妃が自分の家来の誰よりも賢明であると思うようになった。自分よりも賢いとさえ。

「政治的な日ですわね。」王妃は言った。「でも私たちの娘の婚礼でもあるのですよ。楽しみましょう。二度とない日なのですから。」

「何もなければこれほど心配はしない。」王が答える。「私たちがすべてを手にした今、何もかもが心配の種だ。我々は安全ではあるが、安全だという気がしないのだ。」

王妃は同情をこめて、大きなはしばみ色の目で彼の方を眺めた。二人はこの世の知恵をすべて備えているように見える。王妃はいつも伏目がちで、少し眠たげにも見える。顔の両側を縁取っているのは、美しい、真っ直ぐな茶色の髪で、いくらかグレーも混ざっている。しわが少し増えたものの、昔とちっとも変わらない。

「それは、あなたが安全でないからだと思いますわ。」彼女は言った。「安全な王などいません。この宮廷にはあなたの知る由もないくらい、大勢のスパイがいます。それが世の常でしょう。」

王妃はかがんで彼にキスをし、微笑んだ。

「楽しみましょう。」彼女は言った。「結婚式なのですから。」

そう言って王妃は振り向くと、歩いて城壁から出て行った。

王は彼女が出て行くのを見つめ、それから宮廷の外を見た。彼女は正しかった。いつだってそうだ。彼も楽しみたかった。一番上の娘を可愛がっていたし、何と言っても婚礼である。春の盛り、夏が明けようという、一年のうち最も美しい季節。2つの太陽が空に上がり、そよ風が吹く季節の、最も美しい日なのだ。全ての花が咲き誇り、木々はどれもピンク、紫、オレンジそして白のパレットのようだ。下に下りて家来たちと共に娘の結婚に立会い、これ以上は無理だというくらいエールを飲む。そうしたかった。

それでも彼にはできなかった。城を一歩出る前にしなければならないことがたくさんあった。結局、娘の婚礼の日というのは王としての義務があることを意味する。諮問会の顧問たち、子どもたち、そしてこの日に王との拝謁を許された大勢の嘆願者たちに会わねばならない。日没の儀式に間にあうよう城を出られたら幸運だと言えよう。

*

最も上質な王衣、黒のベルベットのズボンに金のベルト、紫と金の最高の絹でできた王のガウンに身を包み、白のマントを羽織る。すねまでの丈の光沢のある革のブーツを履き、中央に大きなルビーをはめた華麗な金環状の王冠をいただいたマッギル国王は、従者たちに両脇を囲まれて、城内の廊下を堂々と歩いた。欄干から階段へと降り、謁見室を横切って、部屋から部屋へ進み、ステンドグラスが並び、高い天井とアーチを持つ大広間を通過した。最終的に、木の幹のように分厚い古い樫材の扉にたどり着いた。従者が扉を開け、それから脇へ退いた。王座の間である。

王の顧問団はマッギル国王の入室時、直立不動の姿勢で迎えた。扉は王の背後で閉じられた。

「着席。」王は言った。普段よりも唐突である。彼は疲れていた、今日は特に。国を統治するための、果てしなく続く形式的行為。それを片付けてしまいたかった。

王座の間の端から端まで歩いた。この部屋にはいつも感嘆させられる。天井は50フィートの高さで、壁一つは全面ステンドグラスのパネルになっている。石でできた床や壁は厚さ1フットもある。百人の高官が楽に入る。だが今日のような日に諮問会が召集されると、がらんとした部屋に王と一握りの顧問がいるだけだった。部屋で圧倒的に場所を占めているのは半円形の広いテーブルで、その向こう側に顧問団が立っていた。彼は中央に開いた場所を通り、王座へと進んだ。金色のライオンの彫刻を通り過ぎて石段を登り、純金の王座を縁取る紅のベルベットのクッションに沈むように座った。父も、その父も、これまでのマッギル一族はすべてこの王座に座ってきた。ここに腰掛ける時には先祖の重みを感じた。すべての世代の、そして特に自分自身にかかる重みを。

出席している顧問団を見た。優れた将軍であり軍事関連の顧問を務めるブロムがいた。リージョン少年団の将軍コルク、最年長で、学者・歴史家、国王の指導者を3世代にわたって務めてきたアバソル、宮廷で国際関係の相談役を務めるファース、短い白髪頭のやせた男で、引っ込んだ目は決してじっとしていることがない。マッギル国王はこの男を信用したことがない。またこの肩書きの意味も理解していない。だが、国王の父や祖父は宮廷に関する顧問を必ず置いていたため、彼らに敬意を表してこの職を置いた。会計局長官のオーエン、対外関連顧問のブレイディ、収税吏のアーナン、国民に関する顧問のドウェイン、そして貴族代表のケルビン。

絶対的な権限はもちろん国王にある。ただしこの王国は自由な国であり、先祖はいつもすべての事柄において、代理人を通して貴族に発言権を持たせることに誇りを持ってきた。歴史的には、王と貴族の力の均衡は不安定であった。現在は調和を保っているが、他の時代には貴族と王室の間に反乱や権力闘争があった。微妙なバランスだった。マッギルは部屋を見渡し、一人欠けていることに気づいた。最も話をしたいと考えていた人物、アルゴンである。いつもながら、彼がいつ、どこに現れるかは予測できない。マッギルは腹が立ったが、無駄なことだ。受け入れるしかない。ドルイドのやり方は不可解だ。アルゴンが不在のため、マッギルは一層気がせいた。結婚式までにするべきことが山のようにあり、この会議を終わらせてそちらに移りたい。

顧問団は半円形のテーブルを囲み、10フィートずつ離れて、精巧な彫刻を施された古い樫の椅子に王と向かい合って座っていた。

「陛下、始めさせていただきます。」オーエンが呼びかけた。

「そうしてくれ。短く切り上げて欲しい。今日は予定が詰まっているのでな。」 「今日は、お嬢さまがたくさんの贈り物を受け取られることでしょう。王女さまの金庫を埋め尽くすものと願っております。王様に何千人もの民が貢物と贈り物をします。そして娼館と酒場も繁盛し、国庫が満たされることにつながるでしょう。それでも本日の祭事の準備で王室の財源は枯渇しております。私は民と貴族への増税を提案いたします。この祭事の負担を軽減するための、一回きりの課税です。」

マッギルは会計局長官の顔に浮かぶ懸念の色を見た。そして財源の枯渇を思い、気が沈んだ。それでも増税はもうしたくない。

「財政が苦しくとも、忠実な民がいるほうが良い。」マッギルは答えた。「我々の豊かさは民の幸福にある。増税はするべきでない。」

「しかし陛下、もし・・・」

「私はもう決断した。他には?」

オーエンはがっかりして沈み込んだ。

「陛下」ブロムが深みのある声で言った。「ご命令に従い、本日の祭事のため、軍の者を大勢配置しております。圧倒的な兵力を見せつけます。ですが、他が手薄になっておりますので、国内のどこかが攻撃を受けますと、すきが出ます。」

マッギルは考えながらうなずいた。

「敵は、こちらがご馳走を出している間には攻撃しないだろう。」

皆笑った。

「高原からは何か知らせがあるか?」

「何週間も特に動きはありません。婚礼のために兵力を削減したものと思われます。和平の準備ができているのかも知れません。」

マッギルにはよくわからなかった。

「それは、この結婚が功を奏したか、あるいは、攻撃の時を待っているかのどちらかだ。どちらだと思うかね?」と、マッギルはアバソルのほうを向いて尋ねた。アバソルは咳払いをし、がらがら声で言った。「陛下、お父様も、そのお父様もマクラウド一族を決して信用しておられませんでした。横になって寝ているからと言って、これからも起きないということではありません。」

マッギルは、その意見に感謝しながらうなずいた。

「リージョンはどうだ?」王はコルクに向かって尋ねた。

「本日新しい隊員を迎えました。」コルクはすぐにうなずきながら答えた。

「私の息子もその中にいるのだな。」とマッギルが尋ねる。

「誇らしげに入隊されています。すばらしい少年隊員でいらっしゃいます。」

マッギルはうなずき、ブレイディのほうを向いた。

「峡谷の向こうからはどのような知らせがあった?」

「陛下、パトロール隊がここ数週間、峡谷の橋に何度かいたずらされたのを見ております。ワイルドが攻撃にむけて動員している兆候かも知れません。」

ひそひそ声で話すのが聞こえた。マッギルは想像して胃が痛くなった。エネルギーの盾は揺るぎないが、それにしても悪い兆候だ。

「もし大規模な攻撃があったとしてどうなる?」彼は尋ねた。

「盾が活発である限り、何も恐れることはありません。何世紀もの間、ワイルドが峡谷を越えるのに成功したことはないのですから。成功すると考える理由がありません。」

マッギルは確信が持てなかった。外からの攻撃はずっと前にあっったとしてもおかしくない。いつあるやも、と考えずにはいられなかった。

「陛下」とファースが鼻にかかった声で言った。「今日この宮廷がマクラウド王国からの高官たちで溢れていることを考え合わせねばと思います。敵であれ何であれ、彼らを陛下がもてなさなければ侮辱ととられるでしょう。午後の時間を、一人ひとりにご挨拶なさるのに使われることをお勧めいたします。相当な人数の随行団を連れて、祝いの品もたくさん持参しています。スパイも大勢いるとの噂ですが。」

「国内にスパイがこれまでいなかったと誰が言える?」ファースがこちらを見た時、マッギルは彼を注意深く見ながら問い返した。そしていつもと同じく、彼もその一人なのではと考えた。

ファースは答えようと口を開いたが、マッギルはため息をついてもうこれでよい、と手を挙げた。「 議題がそれだけなら、私はもう行くことにする。娘の結婚式に出るのでな。」

「陛下」とケルビンが咳払いをしながら言った。「もちろん、もう一件ございます。最初のお子様の婚礼の日に行う伝統です。マッギル一族は後継者を指名してこられました。皆、陛下がそうされるものと期待していることでしょう。いろいろとうわさしております。皆をがっかりさせるのはお勧めできません。特に、運命の剣がいまだに不動のままとあっては。」

「そなたは、私がまだ王位についている間に後継者を指名しろと言うのか?」マッギルが問いただした。

「陛下、悪意はございません。」ケルビンは口ごもり、不安そうになった。

マッギルは手を挙げた。「伝統は知っておる。それに、今日指名するつもりでおる。」

「どなたかお教えいただけますでしょうか?」とファースが尋ねた。

マッギルは彼を見つめ、当惑した。ファースは噂好きで、マッギルは信用していなかった。

「時が来れば知らせを受けよう。」

マッギルは立ち上がり、皆も立った。彼らは礼をすると振り返り、部屋から急いで出て行った。

マッギルは立ったまま、どれほどの間かわからないくらい長く考えた。このような日には、自分が王でなければよかったと思った。

*

マッギルは王座から降り、静けさの中、長靴の音がこだました。そして部屋を横切った。鉄の取っ手を引いて古い樫の扉を自分で開け、脇の部屋へ入った。

彼は、この居心地のよい部屋で過ごす平和と孤独を、いつもと同様に楽しんだ。壁は、どの方向も隣とは20歩と離れていないが、高い天井にはアーチがある。部屋全体が石造りで、一方向の壁には小さなステンドグラスの丸窓がある。光が黄色や赤の部分から射し込み、がらんとした部屋に一つだけある物を照らしている。

運命の剣。

それはこの部屋の中心、鉄製の突起物の上に、まるで誘惑する女のように水平に置かれている。子どもの頃そうしたように、マッギルは剣に近づき、周囲を回り、観察した。運命の剣。世代から世代へと受け継がれる伝説の剣、王国の力の源。これを持ち上げる力のある者は誰でも選ばれし者となる。命ある限り王国を治め、リングの内外からのすべての脅威から王国を放つ運命を負った者。成長の過程で伝えられてきた美しい伝説。マッギルが国王として聖別された際、この剣を持ち上げようと試みた。マッギル一族の王のみが試すことを許されているからだ。彼の前の代の王たちは皆失敗した。彼は自分だけは違うと確信していた。自分が選ばれし者であると。

だが、彼は間違っていた。それ以前のすべてのマッギル王たち同様。そして彼の失敗はそれ以来王としての汚点となっていた。

今この剣を見つめ、何か誰にも解明できない神秘の金属で造られた長い刃をつぶさに見た。剣の出処は更に謎だった。地震のさなかに大地からそそり立ったと言われている。

剣を観察しているとき、彼はまたもや失敗に終わった痛みを感じていた。良い王ではあるかも知れないが、選ばれし者ではなかった。民はそれを知っている。敵もわかっている。良い王であるかも知れないが、何を成し遂げても選ばれし者にはなれないのだ。もしそうであったなら、宮廷内の不安、謀略はこれほどなかったのでは、と思う。民は彼に更に信を置き、敵は攻撃など考えもしないのでは、と。自分の中のどこかで、いっそのこと剣が伝説とともに消えてしまえばと願っていた。そうはならないことはわかっていた。それが伝説が持つのろいであり、力であった。軍隊さえも及ばない強い力。

何千回目か、今剣を見つめながらマッギルは、いったいそれは誰なのだろうと再び考えずにはいられなかった。一族のうち誰が剣を手にする運命にあるのだろう?目前に迫った後継者の指名について考えながら、もしいるとすれば、誰が剣を持ち上げる運命にあるのだろうと思った。

「刃は重いな。」声が聞こえた。

マッギルは小部屋に誰かいることに驚いて、振り向いた。

扉のところにアルゴンが立っていた。マッギルは、目で見る前から声でそうだとわかっていた。アルゴンがもっと早く来なかったことに苛立ちつつ、今ここに来たことを喜んでもいた。

「遅いぞ。」マッギルは言った。

「陛下の時間の感覚は私とは違いますのでな。」アルゴンが答えた。

マッギルは剣のほうを向いた。

「そなたは、私がこれを持ち上げることができると考えたことはあるか?」考え込むように尋ねた。 「私が王になったあの日に。」

「いいえ。」アルゴンはきっぱりと答えた。

マッギルは振り向き、彼を見つめた。

「私にはできないとわかったいたのだな。見たのか?」

「はい。」

マッギルはこのことを考えた。

「率直に答えるのが怖い。そなたらしくない。」

アルゴンは黙っていた。マッギルはついにアルゴンが何も言わないのだと悟った。

「私は今日後継者を指名する。」マッギルは言った。「この日に指名するのは無益な気がする。子どもの結婚式に王の楽しみを奪うようなものだ。」

「そのような楽しみは抑えるためにあるのかも知れませぬ。」

「だが私にはまだ何年も国を治める期間が残されておる。」マッギルは主張した。

「恐らく、陛下が思っておられるほど長くはないのでは。」アルゴンが答えた。

マッギルは考えながら目を細めてアルゴンを見つめた。それは何かのメッセージなのか?

アルゴンは何も言わなかった。

「6人の子どもたち。誰を選ぶべきか?」マッギルが尋ねた。

「なぜ私にお尋ねになるのですか?もう選んでおられるのでは。」

マッギルは彼を見た。「何もかもお見通しだな。そうだ、もう選んだ。それでも、そなたがどう考えるか知りたい。」

「賢明な選択をなさったと思っております。」アルゴンは言った。「ですが、覚えておいてください。王は墓から治めることはできません。誰を選ぶおつもりかに関わらず、運命は自分で自分を選びます。」

「私は生きながらえるのだろうか、アルゴン?」マッギルは、昨夜恐ろしい悪夢に目覚めたときから知りたいと思っていたことを真剣に尋ねた。

「昨夜私はカラスの夢を見た。」彼は付け加えて言った。「カラスがやってきて私の王冠を盗んで行った。そしてもう一羽が私をさらった。その時私の眼下に広がる王国を見た。私が去るにつれ黒く、不毛な荒地に変わっていった。」

彼はアルゴンを見上げた。目が涙で濡れている。

「これはただの夢なのだろうか?それとも他に何か意味があるのだろうか?」

「夢にはいつも何か意味があるのではないでしょうか?」アルゴンが尋ねた。

マッギルは衝撃で気が沈んだ。

「危険はどこにあるのだ?それだけは教えてくれ。」

アルゴンは近寄って、王の目を覗き込んだ。あまりに力強く見つめるため、マッギルは別の王国を見ているような気がしたほどだった。

アルゴンはかがみ込んでささやいた。

「常に、思っているよりも近いところにあります。」




第四章


ソアは、荷馬車の奥の藁に隠れて田舎道を揺られて行った。昨夜なんとか道路にまでたどり着き、気づかれずに乗り込めるような十分な大きさの荷馬車が来るまで辛抱強く待った。既に暗くなっていたため荷馬車はゆっくりと小走りに進んでいて、ソアが走って後ろから飛び乗るのにちょうどよいスピードだった。干草の中に着地して埋もれるように入り込んだ。御者に見つからなかったのが幸いだった。馬車が国王の宮廷まで行くのかソアには定かでなかったが、その方角に進んでいた。この大きさの荷馬車で、こうした印がついているものは、2、3箇所立ち寄る可能性もある。

ソアは一晩中馬車に揺られながら、サイボルドと遭遇したこと、アルゴンとの出会い、自分の運命、今まで過ごした家のこと、母親のことを考え、何時間も起きていた。宇宙が自分に答えてくれ、別の運命があることを教えてくれたような気がした。彼は頭の後ろで手を組んで横たわり、ぼろぼろのテントを通して夜空を見上げた。宇宙をじっと見ると、とても明るく、赤い星たちははるか遠くにある。ソアは元気づけられた。人生で初めて旅に出たのだ。場所はわからなかったが、とにかくどこかへ向かっていた。どちらにしても、国王の宮廷を目指すのだ。

ソアが目を覚ますと、朝になっていた。光が射し込み、知らない間に寝ていたことに気づいた。すぐに起き上がり、周りを見回して、寝てしまったことで自分を責めた。もっと用心していなければいけなかった。見つからなかったのはついていた。

馬車はまだ動いているが、あまり揺れなかった。その意味はただ一つ、道の状態が良いのだ。街が近いに違いない。ソアは見下ろして、道路が滑らかなのを確かめた。石や溝はなく、細かな白い貝で縁取られている。心臓の鼓動が速くなった。宮廷に近づいているのだ。

ソアは荷馬車の後ろを見て圧倒された。整然とした道は動きにあふれていた。様々な形や大きさの何十台もの荷馬車があらゆるものを運び、道路を埋め尽くしていた。毛皮を積んだものもあれば、絨毯を積んでいるものもある。また別の馬車には鶏が載っていた。その間を何百人もの商人が歩いていて、家畜を引き連れていたり、頭に物を入れたかごを載せていたりする。4人の男たちがポールのバランスを取りながら絹の束を運んでいた。大勢の人々が、皆同じ方角に進んでいる。

ソアはわくわくした。一度にこれほど沢山の人や物、そして沢山の出来事が起こっているのを見たのは初めてだ。これまではずっと小さな村にいた。今は中心地にいて、人に囲まれている。

ソアは大きな音を聞いた。鎖のきしむ音、大きな木の塊のバタンという音、あまりに大きな音に地面が揺れた。数秒後にはそれとは違う音がした。馬の蹄が木をカタカタ叩く音だ。彼は見下ろし、橋を渡っていることに気づいた。下では濠が過ぎていく。跳ね橋だ。

ソアが首を出すと、巨大な石の柱が見えた。上には釘状のものがついている鉄の門がある。王宮の門を通過していたのだ。

今まで見たなかで最も大きい門だった。釘状の部分を見上げ、もし落ちてきたら自分は半分に切り裂かれるだろうと思い、驚嘆した。シルバー騎士団の団員4人が入り口を警護しているのを見つけた。胸が高鳴った。

長い石のトンネルを抜けるとすぐに空がまた見えた。宮廷の中に入ったのだ。

ソアには信じられなかった。ここでは更にたくさんのことが行われていた。そんなことが可能なら。数千人とも思える数の人間があらゆる方向に臼を引いていた。広大な草地が完璧に刈られていて、花がどこにでも咲いていた。道は広がって、その脇に売店や露天商、石の建物が見られた。そしてその中に、国王の軍隊がいた。よろいを着けた兵士たちである。ソアは宮廷に着いたのだ。

興奮して、ソアはうっかり立ち上がった。その時馬車は急に止まり、ソアは後ろ向きに転がって、わらの中に背中から着地した。起き上がる前に木が降ろされる音がして見上げると、はげ頭で擦り切れた服の年取った男がこちらをにらんでいた。御者は入って来てソアの足首をごつごつした手でつかみ、引っ張り出した。

ソアは飛ばされて、砂利道にほこりを巻き上げながら背中から落ちた。周りで笑い声が起こった。

「今度俺の馬車に乗ったら豚箱行きだぞ!シルバー騎士団を呼ばなかったのが幸いだと思え!」

老人は向こうを向いて唾を吐き捨て、荷馬車に急いで戻り、馬に鞭を当てた。ソアはひどく恥ずかしい思いをしたが、ゆっくりと落ち着きを取り戻し、立ち上がった。周りを見回すと、通行人が1人2人くすくすと笑っている。ソアは相手が目をそらすまであざ笑って返した。ほこりを払い、腕を拭いた。誇りが傷ついたが、体のほうは大丈夫だった。

辺りを見回して圧倒され、こんなに遠くまでやって来られただけで満足するべきだと考えているうちに元気を取り戻した。荷馬車を降りたので、自由に見て回ることができる。確かにすごい光景だった。宮廷は視界いっぱいに広がっている。中心に壮大な石造りの宮殿が建ち、塔や石のとりでに囲まれ、胸壁がそびえている。その上では国王の軍隊があちこち巡回をしている。 ソアの周りには手入れの行き届いた芝生や、石造りの広場、噴水や潅木があった。都市だ。人であふれている。

様々な人たちがそこここを歩いている。商人、兵士、高官、皆急いでいる。何か特別なことがあるのだとわかるまで何分かかかった。ソアはぶらぶらと歩きながら、椅子を置いたり祭壇をしつらえたり、といった準備が行われているのを見た。婚礼の準備が行われているようだ。

遠くに騎馬試合場と土の道、仕切り用の綱が見えた時、彼の心臓は一瞬止まった。別の競技場では、兵士たちが槍を遠くの的に向かって投げ、また別のところでは射手がわらをねらっているのが見えた。どこでも試合や競技が行われているように見える。音楽もある。リュート、フルート、シンバル。演奏者の集団がうろうろしている。ワインもだ。大きな樽を転がして出してきた。そして食べ物。テーブルが準備され、見渡す限りごちそうが並べられている。まるでソアは盛大な祝い事のさなかに到着したようだ。

目がくらむようなことばかりの中で、ソアはリージョンを急いで見つけなければと思った。既に遅れを取っているのだから、早く自分のことを知らしめなければならない。彼は最初に目に入った年配の男の人に急いで近づいた。血のついた仕事着を着ているところからすると肉屋のようだ。道を急いで行く。ここでは誰もが急いでいる。

「すみません。」ソアは男の人の腕をつかんで言った。

男はソアの手を非難がましく見た。

「何だね、坊や?」

「僕は国王のリージョンを探しているんです。訓練がどこであるかご存じですか?」

「わたしが地図に見えるかい?」男はなじるように言うと、さっさと行ってしまった。

ソアは、男があまりに粗野なのに驚いた。

そして次に見えた、長テーブルで小麦粉をこねている女の人に近づいた。テーブルでは何人もの女の人たちがいて、忙しそうに働いていた。ソアはそのうちの誰かが知っているに違いないと思った。

「すみません。」彼は言った。「国王のリージョンがどこで訓練しているか、ご存じありませんか?」

皆互いに顔を見合わせてくすくす笑った。何人かは自分より2、3歳上なだけだ。

年長の女性がこちらを向いて彼を見た。

「探す場所を間違えてるわよ。」と彼女は言った。「ここじゃみんなお祝いの用意をしているんだから。」

「でも、王様の宮廷で訓練をしているって聞いたんです。」ソアは混乱して言った。女の人たちはまた笑った。年長の人が腰に手を当てて首を振った。

「あんた宮廷に来たのが初めてみたいなことを言うね。どんなに広いか知らないの?」

ソアは他の女の人たちが笑うので赤くなり、そそくさと逃げた。からかわれるのはごめんだ。

目の前に、宮廷を貫くようにすべての方向に向かって曲がりくねった道路が12本もあるのが見えた。少なくとも12箇所の入り口が、石の壁に間隔を置いて造られている。この場所の規模や範囲といったら実に圧倒的だ。何日探しても見つからないんじゃないか、と落ち込んだ。

ある考えが浮かんだ。兵士なら、他の兵士がどこで訓練しているか知っているだろう。実際の国王の兵士に近づくのは緊張するが、そうするしかないと思った。

振り返って、壁の方へ、最寄の入り口で警護をしている兵士のもとへと急いだ。追い返されなければ良いな、と願いつつ。兵士は直立不動で立ち、まっすぐ前を見ていた。

「僕は国王のリージョンを探しています。」ソアはできるだけ勇気のこもった声を振り絞って言った。

兵士は彼を無視してまっすぐ前を見続けている。

「王様のリージョンを探している、と言っているんですが!」ソアは気づいてもらえるように大きな声でしつこく言った。

数秒後、兵士はあざ笑いながらこちらを見下ろした。

「どこにいるか教えてくれませんか?」ソアはせがんだ。

「何の用があるのだ?」

「とても大切な用です。」ソアは兵士が自分を押しのけないようにと願いながら、せきたてるように言った。

兵士はもとの状態に戻って再びソアを無視し、まっすぐ前を見た。彼は、答えてもらえることはないだろうと思ってがっかりした。

しかし、永遠とも思える時間が経った後に兵士が答えた。「東門から出て、北に向かって出来る限り遠くまで行く。左から3番目の門を通って、それから右側の分かれ道を行く。もう一度右側の分かれ道を行って、二番目の石のアーチを通り過ぎる。訓練場は門の向こうだ。言っておくが、時間の無駄だ。よそ者は相手にしないからな。」

ソアが聞かなければならなかったことはすべて聞けた。少しもひるまずに、ソアは振り返って広場を横切って走り出した。行き方を頭の中で反復し、暗記しようとしながら、指示に沿って行った。太陽が高く昇っているのに気づいた。着いたときにもう遅くなければよいが、とそれだけを祈っていた。

*

ソアは、宮廷を通る整然とした貝で縁取られた小道を、くねくね曲がりながら全速力で走っていった。迷わないようにと願いながら、指示通りに行くよう努めた。宮廷のずっと奥まで行き、門が立ち並ぶ中、左から3番目を選んだ。そこを通って走り、分かれ道をたどって、道という道を下って行った。毎分増えていくように思われる、街に入る数千人の人の流れに逆らって走った。リュート奏者や曲芸師、道化師、その他美しく着飾ったあらゆる種類の芸人たちと肩が触れ合った。

ソアは選抜が自分なしで始まるということは考えただけで我慢できず、訓練場への道しるべはないかと探し、道から道へと進むことに全力で集中した。アーチをくぐり抜け、また別の道を曲がり、そして遠くに唯一の目的地を見つけた。石造りの、完璧な円を描いた小規模な競技場だ。中央に巨大な門があり、兵士が警護している。ソアは壁の向こう側から応援する声が小さく聞こえ、胸が高鳴った。ここだ。

ソアは疾走した。肺が張り裂けそうだ。門のところまで来ると、2人の衛兵が前に進み、槍を下げて道を塞いだ。3人目の衛兵が歩み寄って手の平を出した。

「そこで止まりなさい。」衛兵が命令した。

ソアは、興奮を抑えることができず息を切らしながら止まった。

「あなた方は・・・ご存じ・・・ないでしょう。」ソアはあえぎながら言った。呼吸の合間に言葉がこぼれ出る。「中に入らないとならないのです。遅れてしまって。」

「何に遅れたのだ?」

「選抜です。」

背が低く、重そうなあばた顔の衛兵が振り返って他の兵士のほうを見た。皆は皮肉っぽく見返した。彼はこちらを向きソアをさげすんだ目でじろじろと見た。

「新兵は王室の車両で数時間前に入った。招かれていなければ、中には入れない。」

「でも、あなたはご存じないが、僕は入らないと・・・」

衛兵は手を伸ばしてソアのシャツをつかんだ。

「わかっていないのはお前のほうだろう。生意気なやつめ。どうしたらおめおめとここへ来て無理やり入ろうとするなどということができるのだ?手枷をかけられる前にとっとと行け。」

衛兵はソアを押しのけた。ソアは数フィート後ろまでよろめいた。

衛兵の手が触れた胸の辺りが痛んだ。それよりも、拒絶された痛みを感じた。ソアは憤りを感じた。会ってももらえずに衛兵に門前払いを食わされるために、はるばるここまで来た訳ではない。中に入る決意は固かった。

衛兵は他の兵士のほうを向いていた。ソアはゆっくりと離れ、円形の建物を時計回りに進んだ。彼には計画があった。衛兵たちから見えなくなるまで歩くと、壁に沿ってこっそり進みながら突然走り出した。衛兵が見ていないことを確かめてから、スピードを上げて全力で疾走した。建物の半分ぐらいまで来たところで競技場に続く別の入り口を見つけた。はるか上の方、石の壁にアーチ型にくりぬかれた部分があり、鉄の柵で遮られている。その入り口の一つは柵がなかった。また大きな声が湧き起こるのが聞こえ、壁の出っ張りに上って中を見た。

心臓の鼓動が速くなった。広大な円形の訓練場に、兄たちも含めた数十人の新兵が広がっていた。列になって、12人のシルバー騎士団員のほうを向いている。兵士たちがその間を歩き、説明をしている。

新兵の別のグループは、兵士が監視するなか、離れたところで遠くの的に向かって槍を投げている。一人は的をそらした。

ソアの血管は憤りで熱くなった。自分ならあの的を射ることができただろう。彼らと同じようにうまくできるのだ。単に若くて少し小柄だというだけで外されるのは不公平だ。

突然、ソアは背中に手が置かれるのを感じた。かと思うと、ぐいと引っ張られ、宙を飛んだ。下の地面に強く叩きつけられ、息もできなくなった。

見上げると、門のところの衛兵があざ笑いながらこちらを見下ろしている。

「さっき私は何と言った、小僧?」

反応する前に衛兵がかがみ込んでソアを強く蹴りつけた。衛兵がもう一度蹴ろうとした時に、ソアはあばら骨に鋭い衝撃を感じた。

今度はソアが衛兵の足を空中でとらえて引っ張り、バランスを崩させ、転倒させた。

ソアはすぐに立ち上がった。同時に衛兵も立ち上がった。ソアは立って睨み返しながら、自分がしてしまったことに衝撃を受けていた。衛兵が反対側からこちらを睨んでいる。

「手枷をはめるだけでは済まないぞ。」と衛兵は言った。「このつけは払ってもらう。国王の衛兵には誰も手出しをしてはならないのだ!リージョンの入隊はあきらめるんだ。お前は牢屋行きだからな!生きて出てこられたらついていたと思え!」

衛兵は手枷のついた鎖を出した。復讐の念をあらわにしながら、ソアに近づいた。

ソアの心は騒いだ。手枷をはめられる訳にはいかない。だが、国王の衛兵を傷つけたくはない。何か方法を考え出さねば、しかもすぐに。

彼は投石具を思い出した。反射的にそれをつかむと、石を置き、ねらいを定めて飛ばした。

石は空高く飛び、手枷を打ち、驚いている衛兵の手から落とさせた。石は衛兵の指にも当たった。衛兵は痛みに叫び声を上げながら、手を引っ込めて振り、手枷が地面に音を立てて落ちた。

衛兵はソアに殺意に満ちた目を向け、剣を抜いた。特徴のある金属の環とともに。

「最後に過ちを犯したな。」そう脅すと、突進してきた。

ソアには選択肢はなかった。この男は自分を生きて返すつもりはない。投石具にもう一つ石を置き、投げた。慎重に的を絞った。衛兵を殺したくはなかったが、攻撃をやめさせなければならない。心臓や鼻、目、頭をねらう代わりに、相手を殺さずに止められると分かっている場所をソアはねらった。

衛兵の両脚の間だ。

石を飛ばした。あまり強過ぎず、相手を倒すことができるくらいの強さで。

的を完璧に射た。

衛兵は倒れ、剣を落とした。股間を押さえながら地面に倒れ、うずくまった。

「絞首刑になるぞ。」彼は痛みにうめきながら言った。「衛兵!衛兵!」

ソアが見上げると、国王の衛兵が数人、彼の方へ向かって走ってくるのが見えた。

一瞬も無駄にせず、ソアは窓の出っ張りまで走った。競技場に飛び降りなくてはなるまい。そして自分を知らしめるのだ。そして自分の前に立ちはだかる者とは誰とでも戦うつもりだ。




第五章


マッギルは城の上階にある、非公式の会合用の広間に座っていた。私的な用事に使う部屋である。彼は木彫りの自分の席に座り、自分の前に立っている4人の子どもたちに目をやった。長男のケンドリック、25歳の良き戦士で真のジェントルマンである。彼はマッギルに最も良く似ていた。皮肉なことだった。ケンドリックは非嫡子だったからである。マッギルと別の女性との間に生まれた唯一の子どもである。マッギル自身長いこと忘れていた女性である。王妃は最初反対したが、マッギルは彼を自分の本当の子どもたちと一緒に育てた。王位を継承しない、というのが条件だった。ケンドリックが自分の知る限り最も素晴らしい男、父として誇りに思う息子に育った今では、それがマッギルの頭痛の種である。彼よりも良い王国の継承者は出ないだろう。

隣には、対照的な二番目息子がいる。嫡子としては長男であるが。23歳のガレス、やせて頬はこけ、大きな茶色の目は常に落ち着きなく動いている。兄とは、これ以上かけ離れることはないだろうというほど性格が異なる。ガレスの性格はすべてケンドリックならこうではない、というものだった。ケンドリックが率直なら、ガレスは自分の考えを出さないほうであった。兄が気高いのに対し、ガレスは不正直で人を騙すところがあった。マッギルにとって自分の息子を嫌うのは辛いことであったので、性格を直すようずいぶん努力した。しかし、10代のある時期から彼の性格は持って生まれたものとしてあきらめた。狡猾で、権力欲があり、悪い意味で野心があった。また、女性に興味がなく、彼には男性の恋人が大勢いることもマッギルは知っていた。他の王ならそのような息子は追放していたであろう。しかしマッギルは心の広い人であったので、このことは息子を嫌う理由にならなかった。このようなことでは人を判断しなかった。判断材料になったのは彼の悪意やはかりごとをする性格であり、これは見過ごすことができなかった。

ガレスの隣に並んでいるのは、二番目の娘、グウェンドリンである。16歳になったばかりで、マッギルが今までに見たなかで最も美しい少女だ。そしてその性格は外見をしのぐ。親切で、寛大、正直だ。彼が知る若い女性の中で最も素晴らしい娘である。そういう意味ではケンドリックと似ていた。彼女は父を慕う心でマッギルを見、彼はいつもグウェンドリンの忠実さを感じていた。息子たちよりも彼女のことを誇りに思っているくらいだった。

グウェンドリンの脇に立っているのはマッギルの末の息子、リースである。誇り高く、元気の良い少年だ。14歳で大人になり始めたところだ。マッギルは彼がリージョンに入隊したのをとても喜び、どんな大人になるか先が見えるようであった。いつかリースが最高の息子、そして偉大な為政者になることにマッギルは何の疑いも抱いていない。しかしそれは今ではない。彼はまだ若く、学ぶべきことも多い。

マッギルは目の前に立つこの4人の子どもたち、3人の息子と娘1人を見ながら、複雑な気持ちであった。誇り高い気持ちと失望が混ざっていた。また子どもたちのうち2人が欠けていることにも怒りと困惑を感じていた。一番上の娘ルアンダはもちろん自分の結婚式の準備がある。彼女は別の王国に嫁ぐのであるから、後継者を決めるこの話し合いには関係がない。しかしもう一人、真ん中の息子で18歳のゴドフリーがいなかった。マッギルはその冷たい態度に憤りで顔を真っ赤にした。

子どもの頃からゴドフリーは、王というものに対し敬意を表わさなかった。王位に興味がなく、国を治めるつもりがないのは明らかだった。マッギルを失望させたのは、ゴドフリーがごろつきと酒場に入り浸る日々を過ごし、王室の恥と不名誉になっていることだった。怠け者で、ほとんどの日を昼間も寝ているか、または酒を飲んでいるかして過ごしていた。マッギルは彼がこの場にいないことに安堵する一方で、我慢ならない侮辱だとも感じていた。実際、マッギルはこのような事態を予測し、家来たちに早くから酒場をくまなく探し、連れ戻すよう命じていた。マッギルは座ったまま黙って、家来たちが来るのを待った。

重い樫の扉が音を立てて開き、王室の衛兵がゴドフリーを間にはさんで連れて入ってきた。兵士たちがゴドフリーを押して前に進め、後ろで扉を閉めると、彼は部屋によろめきながら入ってきた。

子どもたちはそちらを向いて見つめた。ゴドフリーはだらしなく、エールのにおいをさせていた。ひげも剃らず、服もきちんと着ていない。彼は微笑み返した。不作法なのもいつもと同じだ。

「やあ、父さん。」ゴドフリーは言った。「楽しいことはもう終わったかな?」

「お前は兄弟たちと一緒に立って、私が話すのを待ちなさい。そうしなければ、神にかけて言うが、私が鎖につないで牢屋に入れる。普通の囚人と一緒だ。エールどころか、3日間食事も出ないぞ。」

ゴドフリーはそこに立ち、父親のほうを挑戦的に睨み返した。そのまなざしの中に、マッギルは深い力の源泉、マッギル自身の何か、いつかゴドフリーの役に立つ何か光るものを見出した。彼が自分の性格を克服できれば、だが。

最後まで反抗的な態度でいたが、10秒もするとゴドフリーは結局折れて他の者のところへゆっくり歩いて行った。

全員が揃ったので、マッギルは5人の子どもたちを見た。非嫡子、逸脱した者、大酒飲み、娘、そして末っ子。この変わった取り合わせが、皆自分から生まれたのだとは信じ難かった。そして今、長女の結婚式にこの中から後継者を選ぶ責務が彼にのしかかっていた。どうしてそんなことができよう?

無意味な習慣だった。マッギルは全盛期にあり、あと30年は国を治めることができる。今日誰を後継者に選んだとしても、あと数十年間は王位につくことがない。伝統が彼を苛立たせていた。先祖の時代には有効だったかも知れないが、今の時代には合っていない。

彼は咳払いをした。

「今日私たちは伝統的儀式のために集まった。知ってのとおり、今日私の長女の結婚式にあたり、後継者を指名する仕事が私にはある。この王国を治める継承者だ。もしわたしが死んだら、お前たちの母親よりも統治にふさわしい者はいないが、王国の法律では王の子どものみ継承を許される、とある。そのため、私は選ばなければならない。」

マッギルは考えて、一息ついた。重い沈黙が立ち込め、期待の重さを感じた。皆の目を覗き込み、それぞれが異なるものを表現しているのを見た。非嫡子は自分が選ばれないのを知っていて、もうあきらめているのが見て取れた。逸脱した者の目は、まるで自分が当然選ばれるとでも思っているかのように、野心でギラギラしていた。大酒のみは窓の外を見ていた。どうでもよいのだ。娘は、この話に自分は加わっていないとわかっていて、いずれにせよ父親が好きだという目でこちらを見ていた。末っ子も同じだった。

「ケンドリック、私はいつだってお前のことを本当の息子だと考えてきた。しかし王国の法律で嫡出でない者には王位を授けられない。」

ケンドリックはお辞儀をした。「父上、私は父上が私に王位を授けられるとは思っておりませんでした。自分の立場に満足しております。このことで頭を悩ませたりなどなさらないでください。」

マッギルは、この返事に心が痛んだ。ケンドリックの純粋さを感じ、自分としても彼を一層後継者に指名したくなったためである

「これで候補者は4人となった。リース、お前はとてもよい、最高の若者だ。しかし、この話をするには若すぎる。」

「私もそう思っておりました、父上。」リースは頭を下げながら答えた。

「ゴドフリー、お前は私の3人の嫡子の一人だ。だが、お前は酒場で日々を無駄に過ごし、道徳的に堕落している。生活する上での特権はすべて与えられていながら、それをはねつけている。私が人生で失望していることがあるとすれば、それはお前だ。」

ゴドフリーは居心地悪そうに動きながら、顔をゆがめた。

「じゃあ、これで俺の役目も終わりだな。酒場に戻ったほうがよさそうだな、父上?」

尊敬の念に欠けたお辞儀を素早くしたかと思うと、ゴドフリーは振り返り、部屋を横切って行った。

「戻りなさい!」マッギルが叫んだ。「今すぐにだ!」

ゴドフリーは無視して歩き続けた。部屋を渡り切ると扉を引いた。衛兵が二人そこにいた。

衛兵たちがいぶかしそうに王を見た時、マッギルは怒りで煮えくり返っていた。

だがゴドフリーは待たなかった。衛兵たちを押しのけて前を通り、廊下へ出て行った。

「引き止めなさい!」マッギルは叫んだ。「そして王妃の目につかないようにするのだ。娘の結婚式の日にあの子のことで母親に心配をかけさせたくない。」

「承知しました、陛下。」彼らは言った。扉を閉じ、ゴドフリーの後を急いで追った。

マッギルは座って息をついた。赤い顔をして、落ち着こうとしていた。どうしてあのような子にしてしまったのか、と考えたことは今まで数え切れないほどある。

残った子どもたちを見た。4人がそこに立ち、沈黙したまま待っている。マッギルは集中するため、深呼吸をした。

「残ったのは2人だ。」彼は続けた。「この2人から私は後継者を選んだ。」

マッギルは娘のほうを見た。

「グウェンドリン、お前だ。」

息をのむ音がした。子どもたちは皆ショックを受けたようだった。グウェンドリンは特にそうだった。

「父上、はっきりとおっしゃいましたか?」ガレスが尋ねた。「グウェンドリンとおっしゃったのですか?」

「光栄です、お父様。」グウェンドリンが言った。「でも私は受けられません。私は女です。」

「確かにマッギル家で女が王位についたことはかつてない。だが、私は伝統を変えるべき時であると決めたのだ。グウェンドリン、お前は私が出会った若い娘の中で最も立派な心と精神を持っている。お前は若い、だがうまく行けば、私はまだまだ生き長らえる。時が来れば、お前には国を治めるにふさわしい賢さが身に付いていることだろう。王国はお前のものだ。」

「ですが父上!」ガレスは青白い顔で叫んだ。「私は嫡子の中で年長です!マッギル家の歴史では、必ず年長の息子に王位が継承されてきました!」

「私は王である。」マッギルはきっぱりと言った。「伝統を決めるのは私だ。」

「でもそれは不公平というものです!」ガレスは哀れっぽい声で嘆願した。「妹ではなく、私が王になるべきです。女ではなく!」

「黙りなさい!」マッギルは怒りに震えながら叫んだ。「お前は私の判断に異議があるのか?」

「では私は女性の代わりに除外されるというのですか?私のことをそのようにお考えですか?」

「私はもう決断を下した。」マッギルは言った。「お前はそれに敬意を表し、従いなさい。王国の他の者と同じように。さあ、お前たちはもう下がってよい。」

子どもたちは素早くお辞儀をして、部屋から出て行った。

しかしガレスは扉のところで止まり、立ち去れないでいた。

振り向いて、一人で父のほうを向いていた。

マッギルは彼の顔に落胆の色を見た。今日指名されると予測していたのは明らかだ。それだけでなく、指名されたかったのだった。のどから手が出るほど。マッギルにはちっとも驚きではなかった。それが彼に王位を譲らなかった理由そのものだった。

「あなたはどうして私を嫌うのですか、父上?」彼は尋ねた。

「嫌ってなどおらん。ただ王国を治めるのに適していないと思っただけだ。」

「それはなぜですか?」ガレスはせきたてた。

「それは、お前が王位を望んでいたからだ。」

ガレスの顔は真っ赤に染まった。父は明らかに 自分の本質を見抜いていることを言っているのだ。マッギルは息子の目を見つめ、自分に対するあり得ないくらいの憎悪で燃えているのを見た。

それ以上何も言わないうちにガレスは部屋から飛び出て、扉を後ろ手でバタンと閉めた。こだまするその音にマッギルは震えた。息子の眼差しを思い起こし、敵のそれよりも深い憎しみを感じ取った。その瞬間、マッギルはアルゴンのことを、彼が危険が近くにあると言っていたことを思った。これほど身近にあるなどということがあり得るのだろうか?




第六章


ソアは広大な競技場を横切って全力で疾走した。王室の衛兵たちの足音がすぐ背後に聞こえる。彼らは暑く、ほこりっぽい場所で悪態をつきながらソアを追った。前方には新兵、リージョンのメンバー数十人が散らばっていた。皆、自分と同じような少年たちだが、自分よりも年が上で力もある。訓練中で、あらゆる編成でテストを受けている。武器の槍を投げている者、槍投げ競技用の槍で投擲をしている者、槍騎兵用の槍の握り方を練習している者も数名いた。遠くの的をねらい、外すことはめったになかった。これは自分の得意な競技であり、彼らは手ごわそうだった。

中には本物の騎士も数十名いた。シルバー騎士団のメンバーだ。半円形に広がって動きを観察し、審査している。誰が残り、誰が家に帰されるのか決めるのだ。

ソアは自分の力を証明し、印象づけなければならないとわかっていた。すぐに衛兵たちが追ってくる。もし自分を心に留めてもらうチャンスがあるとしたら、今しかない。でもどうやって?中庭を走っているとき、頭の中で考えが渦巻いた。引き下がるものか。

ソアが競技場を走っていることに皆が気づき始めた。新兵の中には、手を止めて振り向く者もいた。騎士もだ。すぐに、ソアは自分に関心が集まっているのを感じた。皆とまどっている。競技場を走り、衛兵3人に追われている自分のことを、一体誰なのだろうと思っているに違いないとソアは考えた。こんなやり方で印象づけたいとは思っていなかった。今までずっとリージョンに入隊したいと夢見てきたが、こんなことが起きるとは想像だにしていなかった。

ソアは走りながら何をすべきか考えていたが、とるべき行動はおのずから明らかになった。新兵で一人の体格の良い少年が、皆を感心させようとしてソアを止める役を買って出たのだ。背が高く、筋肉隆々なこの少年は、体がソアの二倍ほどある。ソアの行く手を阻もうとして木の剣を振り上げた。ソアには、彼が自分を倒して笑いものにすることで、他の新兵よりも優位に立とうとしているのがわかった。

そのことがソアを怒らせた。彼と闘ういわれはなかったし、自分がするべき喧嘩ではなかったが、他の皆よりも優位に立つためだけにこの闘いに応じようと決めた。

二人が近づくにつれ、ソアはこの少年の大きさに目を疑った。塔のように自分の前に立ちはだかってこちらを睨んでいる。額を覆う黒髪は豊かで、ソアが今まで見た中で最も大きく四角いあごをしている。この少年を相手にどう闘えばよいのかわからなかった。

少年は木の剣でソアに襲いかかってきた。ソアは素早く動かなければやられる、とわかっていた。

反射神経が反応した。本能的に投石具を取り出し、石を引いて少年の手に向かって投げた。石は的を射て剣に当たり、少年が手を降ろしたときに剣は手を離れ、宙に飛んだ。少年は叫び声をあげ、自分の手をつかんだ。

ソアは時間を無駄にしなかった。彼は突進した。すきを狙って空中に飛び上がり、少年を蹴って、二本の足が正面から胸に食い込んだ。少年は胸板が厚いため、樫の木を蹴っているようなもので、ほんの数インチ後ろによろめいただけだった。一方ソアは行き詰って、少年の足元に落ちた。ドシリと音を立てて着地しながら、これはまずいぞ、とソアは思った。耳が鳴っていた。

ソアは立ち上がろうとしたが、少年のほうが一歩早かった。背中につかみかかったかと思うとソアを投げ飛ばした。土の中に顔から落ちた。

少年たちがあっという間に二人を取り囲み、歓声を上げた。ソアは顔が赤くなり、自尊心を傷つけられた。

ソアが振り向いて立ち上がったが、少年は素早かった。既に自分を上から押さえつけている。いつの間にかレスリングとなり、そうなると少年の重さはとてつもなかった。他の新兵たちが輪になり、血を求めて叫んでいるのが聞こえてきた。少年が上から睨んでいる。両手の親指を伸ばし、ソアの目に近づける。信じられなかった。自分を本当に傷つけようとしているのだ。それほど人よりも優位に立ちたいのか?

最後の瞬間にソアは頭をそらしてよけ、少年の手は地面に着いた。そのすきに体を転がして少年から逃れた。

ソアは立って、やはり立ち上がった少年に対峙した。突進してソアの顔に飛び掛ってきた少年を土壇場でかわした。空気が顔のそばで揺れた。当たっていたら、あごが折れていただろうと思った。ソアは手を挙げて少年の腹にげんこを食らわせたが、相手はびくともしない。木を殴っているようなものだ。

ソアが反応する前に、少年が顔に肘鉄を食らわせた。ソアはめまいがして後ろによろめいた。ハンマーで殴られたようだった。耳が鳴った。

ソアがよろめきながら息を整えようとしている間に、少年は突進して胸を強く蹴ってきた。ソアは後ろに飛ばされ、地面に背中から落ちた。他の少年たちがはやし立てた。ソアはくらくらして、上体を起こして座ろうとしたが、その瞬間少年がもう一度襲いかかった。飛び上がって、またもや顔を激しく殴った。ソアは再び背中から倒れ、そのまま動かなかった。

皆の抑え気味の喝采が横たわっているソアに聞こえてきた。顔への一撃で鼻から流れた血の塩辛い味がした。痛みでうめいた。見上げると、大柄の少年が向こうを向いて、勝利をほめたたえる友人たちのほうへ歩いていくのが見えた。

ソアはここでやめたかった。この少年は大きすぎる。闘っても無駄だ。これ以上罰を受けることもできない。だが、自分の中の何かが駆り立てる。負けるわけにはいかない。この人たちの前で。

あきらめるな。起きろ。起き上がるんだ!

ソアは力を振り絞った。うめきながら、体を回し、手と膝、そしてゆっくりと、足をついて立ち上がった。血を流し、目は腫れ上がってよく見えない。荒く息をしながら、少年の正面に立ち、こぶしを振り上げた。

少年は振り向いてソアを上からにらんだ。彼は信じられない、という顔で首を振った。「寝ていたほうが良いんじゃないか」と、ソアの方へ戻りながら脅すように言った。 「そこまでだ!」声がした。「エルデン、下がりなさい!」

騎士が突然近くにやって来た。二人の間に入り、手を挙げてエルデンがソアに近づくのを制した。皆は静まり、騎士のほうを見た。誰もが敬意を表する人物であることは明らかだった。

ソアは見上げて、騎士の存在に畏怖の念を抱いた。背が高く肩幅は広くて、四角いあごをしている。髪は茶色く、きちんと手入れされていた。年は20代だ。ソアは人目でこの騎士が気に入った。第一級のよろい、磨き上げられた銀でできた鎖かたびらは王室の印、マッギル家のはやぶさの紋章を付けていた。ソアの喉は渇きを覚えた。王室の一員を前にしているのだ。信じられなかった。

「説明しなさい。」彼はソアに言った。「なぜ招かれてもいないのにこの競技場に入ってきたのだ?」

ソアが答える前に、突然王室の衛兵が3人、輪の中に分け入った。衛兵隊長が息を切らしてそこに立ち、ソアを指差した。

「この少年は我々の命令に背きました!」その衛兵が叫んだ。「手枷をはめ、王室の地下牢に連行します!」





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「「魔術師の環」には、直ちに人気を博す要素がすべて揃っている。陰謀、敵の裏をかく策略、ミステリ、勇敢な騎士たち、深まる人間関係、失恋、いつわりと裏切り。すべての年齢層を満足させ、何時間でも読書の楽しみが続く。ファンタジの読者すべての蔵書としておすすめの一冊。」 –ブックス・アンド・ムビ・レビュズ、ロベルト・マットス アマゾンで5つ星の評価を400件以上獲得した、#1ベストセラ! ベストセラ作家モガン・ライスが世に放つ輝かしい新ファンタジ・シリズ。「魔術師の環」第一巻「英雄たちの探求」は、リング王国のはずれにある小さな村出身の14歳の少年が成人していく過程を中心に展開する壮大な物語。ソアグリンは4人兄弟の末っ子、父親からは最も疎んじられ、兄たちにも嫌われているが、自分が他の者とは異質であることを感じていた。偉大な戦士になって王の軍団に属し、峡谷の反対側に棲む生き物の群れからリングを守ることを夢見ていた。成長し、国王の軍団、リジョン入隊の試験を受けることを父親から禁じられた時も、ノという返事を受け入れず、宮廷へ赴いて受け止めてもらう決意で自ら旅に出た。 一方、宮廷では王家の家族のドラマがあり、権力闘争、野心、嫉妬、暴力、そして裏切りがはびこっていた。マッギル国王は自分の子どもたちから後継者を一人選ばねばならない。王家の権力の源である運命の剣は、未だ触れられることなく選ばれし者を待ち続けている。よそ者としてやって来たソアグリンは、受け入れられようと、そして国王のリジョンに入隊しようと奮闘する。 ソアグリンは、自分が特別な才能を授かり、自分でも理解しがたい力が潜んでいること、そして特別な運命を定められていることに気付く。彼はまた、あらゆる障害にもめげず王女と恋に落ちるが、二人の禁じられた関係が深まるにつれ強力なライバルの存在に気付く。自分の持つ力を理解しようとソアグリンがもがくなか、国王の魔術師は彼を庇護し、峡谷、そしてドラゴンの棲む国も越えた遠い地にいる、ソアグリン自身も知らない彼の母親のことを教える。 ソアグリンが危険を承知で望んでいる戦士になるためには、訓練を最後まで受けなければならない。だがその試みも、王室を舞台にした陰謀や策略の渦中に置かれ、中断させられる可能性が出てきた。恋愛も、自分の立場も破滅に追い込まれるかも知れなかった。そして王国もまたそうした動きに巻き込まれる。 物語世界の構築と人物設定に磨きをかけた「英雄たちの探求」は、壮大な冒険の物語。友達、恋人、ライバル、求婚者、騎士とドラゴン、そして陰謀、策略、成年、失恋、欺瞞、野心と裏切りを描く。栄誉、勇気、運命、そして魔術の物語である。忘れることのできない世界へ読者を引き込む、すべての人を魅了するファンタジ。82,000語。 注:読者の方々のご指摘により、本書の編集・原稿整理を行いました。ファイル版の本書では誤植および文法上の誤りはすべて訂正されています。 シリズの第三巻~第十二巻も発売中です! 「冒頭から読者の注意を引いて離さない・・・テンポが速く、始めからアクション満載のすごい冒険がこの物語のストリ。退屈な瞬間など全くない。」パラノマル・ロマンス・ギルド(「変身」評)

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