Книга - 王の行進

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王の行進
モーガン ライス


魔術師の環 第一巻 #2
「息をのむ、新しい壮大なファンタジーシリーズ。モーガン・ライスが再び放った傑作!この不思議な冒険の物語はJ・K・ローリング、ジョージ・R・R・マーティン、リック・リオーダン、クリストファー・パオリーニ、そしてJ・R・R・トールキンなどを髣髴とさせる。読み始めたら止められない!」--アレグラ・スカイ、ベストセラー”SAVED”の著者 「王の行進」はソアの冒険の旅を一歩先に進め、成人する過程を描く。自分が何者なのか、どんな力を秘めているかが次第に明らかになっていく。そして戦士になるための道を歩み始める。 地下牢から脱出後、ソアはマッギル国王暗殺の企みが再びあったことを知り、恐怖におののく。マッギルの死後、王国は混乱に陥る。誰もが王座を狙うなか、宮廷は家族のドラマ、権力闘争、野心、嫉妬、暴力そして裏切りに翻弄される。子どもたちの中から継承者を選ばなければならない。そして皆の力の源である古代の運命の剣は、新しい者が手にする可能性が出てくる。だが、こうしたことのすべてが覆るかも知れなかった。殺人の凶器が見つかり、暗殺者捜索の営みが強化された。同時にマッギル家は、リング内から再び攻撃を仕掛けようとするマクラウドの脅迫に直面する。 ソアはグウェンの愛を取り戻そうとするが、時間がない。戦友たちと共に、リージョンの団員が全員生き延びなければならない地獄の百日間に向けて準備するよう命じられた。彼らは峡谷を越え、リングの守護の及ばないワイルドへ入り、ドラゴンが守っていると言われるミスト島目指してタトゥビアン海を渡らなければならない。それが彼らの成年の儀式なのだ。 皆、無事に戻れるだろうか?リージョンの留守をリングは乗り切れるだろうか?そしてソアは自分の運命の秘密を知ることができるだろうか? 物語の世界構築と人物設定に磨きをかけた「王の行進」は、壮大な冒険談。友達、恋人、ライバル、求婚者、騎士とドラゴン、そして陰謀、策略、成年、失恋、欺瞞、野心と裏切りを描く。栄誉、勇気、運命そして魔術の物語である。忘れることのできない世界へ読者を引き込む、すべての人を魅了するファンタジー。60,000語。 シリーズの第三巻~第十巻も発売中です!







王の行進

(魔術師の環 第二巻)



モーガン・ライス


モーガン・ライス



モーガン・ライスは、いずれも#1ベストセラーとなった、ヤング・アダルトシリーズ「ヴァンパイア・ジャーナル」(1 - 11巻・続刊)、世紀末後を描いたスリラーシリーズ「サバイバル・トリロジー」(1 - 2巻・続刊)、叙事詩的ファンタジーシリーズ「魔術師の環」(1 - 13巻・続刊)の著者です。



モーガンの作品はオーディオブックおよび書籍でお楽しみいただけます。現在、ドイツ語、フランス語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語、日本語、中国語、スウェーデン語、オランダ語、トルコ語、ハンガリー語、チェコ語およびスロバキア語に翻訳され、他の言語版も刊行予定です。



読者からのお便りを待っています。メーリングリストへの登録や無料アプリのダウンロードが行え、無料書籍やプレゼント、ファン限定の最新情報が満載のウェブサイト、 www.morganricebooks.com (http://www.morganricebooks.com) をぜひご覧下さい。Facebook、Twitterでのご連絡もお待ちしています!


モーガン・ライス賞賛の声



「魔術師の環には、直ちに人気を博す要素がすべて揃っている。陰謀、敵の裏をかく策略、ミステリー、勇敢な騎士たち、深まっていく人間関係、失恋、偽りと裏切り。すべての年齢層を満足させ、何時間でも読書の楽しみが続く。ファンタジーの読者すべての蔵書としておすすめの一冊。」 - ブックス・アンド・ムービー・レビューズ、ロベルト・マットス



「ライスは設定を単純に描き出す次元を超えた描写で最初から読者をストーリーに引きずりこむ・・・とてもよい出来栄えで、一気に読めてしまう。」 - ブラック・ラグーン・レビューズ(「変身」評)



「若い読者にぴったりのストーリー。モーガン・ライスは興味を引くひねりをうまく利かせている・・・新鮮でユニーク、ヤングアダルト向けのパラノーマル・ストーリーに見られる第一級の要素を持った作品。シリーズは一人の少女を中心に描かれる・・・それもひどくとっぴな!読みやすくて、どんどん先に進む・・・ちょっと風変わりなロマンスを読みたい人におすすめ。PG作品。」 - ザ・ロマンス・レビューズ(「変身」評)



「冒頭から読者の注意を引いて離さない・・・テンポが速く、始めからアクション満載のすごい冒険がこの物語のストーリー。退屈な瞬間など全くない。」 - パラノーマル・ロマンス・ギルド(「変身」評)



「アクション、ロマンス、アドベンチャー、そしてサスペンスがぎっしり詰まっている。このストーリーに触れたら、もう一度恋に落ちる。」 - vampirebooksite.com(「変身」評)



「プロットが素晴らしく、特に夜でも閉じることができなくなるタイプの本。最後までわからない劇的な結末で、次に何が起こるか知りたくてすぐに続編が買いたくなるはず。」 - ザ・ダラス・エグザミナー(「恋愛」評)



「トワイライトやヴァンパイア・ダイアリーズに匹敵し、最後のページまで読んでしまいたいと思わせる本!アドベンチャー、恋愛、そして吸血鬼にはまっているなら、この本はおあつらえ向きだ!」 - vampirebooksite.com(「変身」評)



「モーガン・ライスは、才能あふれるストーリーテラーであることをまたもや証明してみせた・・・ヴァンパイアやファンタジー・ジャンルの若いファンのほか、あらゆる読者に訴えかける作品。最後までわからない、思いがけない結末にショックを受けるだろう。」 - ザ・ロマンス・レビューズ(「恋愛」評)


モーガン・ライスの本



魔術師の環

英雄たちの探求(第一巻)

王の行進(第二巻)

ドラゴンの運命(第三巻)

名誉の叫び(第四巻)

栄光の誓い(第五巻)

勇者の進撃(第六巻)

剣の儀式(第七巻)

武器の授与(第八巻)

呪文の空(第九巻)

盾の海(第十巻)

鋼鉄の支配(第十一巻)

炎の大地(第十二巻)

女王の君臨(第十三巻)



サバイバル・トリロジー

アリーナ1:スレーブランナー(第一巻)

アリーナ2(第二巻)



ヴァンパイア・ジャーナル

変身(第一巻)

恋愛(第二巻)

背信(第三巻)

運命(第四巻)

欲望(第五巻)

婚約(第六巻)

誓約(第七巻)

発見(第八巻)

復活(第九巻)

渇望(第十巻)

宿命(第十一巻)











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Copyright © 2013 by Morgan Rice

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本書はフィクションであり、作中の名称、登場人物、社名、団体名、地名、出来事および事件は著者の想像または創作です。実在の人物・故人とは一切関係ありません。



カバー画像の著作権は Bilibin Maksymに属し、Shutterstock.comの許可を得て使用しています。


目次



第一章 (#ub4876589-e4e8-580a-9892-a5f0c9fd56bb)

第二章 (#u5078f5f2-a64f-5020-83c8-750a16a0b8db)

第三章 (#u3539929d-a36f-5f49-a3ff-0b30ef7ad2d8)

第四章 (#u4e43099f-b35d-5438-8e69-4d89dc5cdad0)

第五章 (#uec3281a2-88af-5da9-a312-7cd5047cbfbc)

第六章 (#ub323fdc2-9ef1-5c4b-8460-6e6a88197b01)

第七章 (#litres_trial_promo)

第八章 (#litres_trial_promo)

第九章 (#litres_trial_promo)

第十章 (#litres_trial_promo)

第十一章 (#litres_trial_promo)

第十二章 (#litres_trial_promo)

第十三章 (#litres_trial_promo)

第十四章 (#litres_trial_promo)

第十五章 (#litres_trial_promo)

第十六章 (#litres_trial_promo)

第十七章 (#litres_trial_promo)

第十八章 (#litres_trial_promo)

第十九章 (#litres_trial_promo)

第二十章 (#litres_trial_promo)

第二十一章 (#litres_trial_promo)

第二十二章 (#litres_trial_promo)


「柄をこちらに向け、

私の目の前にあるこれは短剣か。

掴んでやろう。

掴めぬが、そこにあるのは見えている。」

—ウィリアム・シェイクスピア

マクベス




第一章


マッギル王は、かなり酒を飲みすぎたため、自室に倒れこむようにして戻った。今宵の宴を終え、部屋はぐるぐる回り、頭は脈打っていた。王のそばには名も知らぬ女がまとわり付き、片腕を腰に回してきた。ブラウスが半分はだけたまま、含み笑いを浮かべながら王をベッドへと連れて行った。 付き人は二人の背後で扉を閉め、控えめに立ち去った。

王妃がどこにいるのかもマッギルにはわからなかった。今夜はそれも気にならない。ベッドを共にすることなど、今ではめったになかった。王妃は自分の部屋に戻ることが多かったが、特に夕食が長引く宴会の後はそうだった。夫が羽目を外すのは知っていたが、気にする様子もなかった。いかんせんマッギルは王であり、マッギル家の王たちはいつの世も特権を伴う統治者であった。

だが、ベッドに向かう時のマッギルのめまいはひど過ぎた。突然、彼は女を退けた。もはやそのような気分にはなれなかった。

「一人にしてくれ。」そう命令すると、彼は女を押しやった。

彼女は驚いて傷つき、立ち尽くした。扉が開き、付き人たちが戻ってきて片方ずつ女の腕を取ると外へ連れて行った。女は抵抗したが、後ろで扉が閉まり、声は遠くなった。

マッギルはベッドの脇に腰をかけ、頭痛が治まるようにと頭を両手にうずめた。こんなに早く、酔いがおさまらぬうちに頭痛が始まるのは珍しかった。今夜はいつもと違い、すべてが目まぐるしく変化した。宴は順調だった。上等な肉と強めのワインでくつろいでいたところに、あの少年、ソアが登場し、すべてを台無しにしたのだ。しゃしゃり出て来て、おかしな夢の話をした。そして厚かましくも私の手から杯を叩き落とした。

そこへあの犬が現れて酒をなめ、皆の目の前で死んだ。マッギルはそれ以来震えが止まらない。現実に打ちのめされたのだ。誰かが自分に毒を盛ろうとした。暗殺するために。どうにも理解できなかった。衛兵や毒見役もすり抜けた者がいる。自分は死ぬ一歩手前だった。そのことが未だに彼を震えさせていた。

ソアが牢獄へ連れて行かれたのを思い出し、そう命じたのが正しかったかどうか考えた。あの少年が毒を盛ろうとした張本人か、犯罪に関わっているのでない限り、杯に毒が入っていたことを知りえないのは確かだ。だがその一方で、ソアには深遠な、神秘的過ぎるとも言える力が備わっていることもわかっている。彼は本当のことを言っているのかも知れない。本当に夢に見たのかもしれない。彼は実際に自分の命を救ってくれ、そして自分はその真に忠実な者を牢獄へと追いやってしまったのかも知れない。

座って額のしわをこすりながら起こったことを整理しているうち、そのことに考えが至り、マッギルの頭はうずいた。だが今夜はひどく飲みすぎた。頭に霞がかかったように思考はどうどう巡りで、真相を解明することなどできない。ここは暑すぎる。蒸し暑い夏の夜、長い時間ご馳走と酒を貪って、体がすっかりほてり汗をかいていた。

マッギルは手を伸ばしてマントとシャツを脱ぎ、下着姿になった。眉とあごひげの汗を拭ってから、反り返って大型の重いブーツを片方ずつ脱ぐと、つま先を丸めた。座ってバランスを取り戻そうとしながら荒く息をした。腹に肉が付いてきた今では、なかなか大変だ。脚を蹴り上げて仰向けになり、枕に頭をあずけた。ため息をつきながら、ベッドの四本の柱と天井を見上げ、目が回るのが止まってくれることを願った。

いったい誰が自分を殺したいというのか? マッギルは再び考えた。ソアのことは自分の息子のように可愛がっていたため、彼であるわけがないと心のどこかで感じていた。ではいったい誰なのだろう、動機は何なのか、と考えた。そして最も肝心なのは、再びしかけてくるだろうか、ということだった。自分は安全なのだろうか?アルゴンの予言は正しかったのだろうか?

答えは自分の理解を超えたところにあると思ったのと同時に、マッギルはまぶたが重くなってくるのを感じた。頭がもう少し冴えていたら、答えが出ていたかも知れない。だが、夜が明けてから顧問団を召集し、捜査を始めるまで待たなければならないだろう。頭の中にあったのは、誰が自分を殺したいかではなく、誰が自分に死んで欲しくないと思っているか、という問いだった。宮廷には王位を欲しがる者があふれている。野心家の将軍たちや策を弄する議員、権力を求める貴族や領主、スパイ、昔からのライバル、マクラウド家の、そしてもしかしたらワイルド(荒地)からの暗殺者。恐らくそれよりは近いだろう。

瞼がピクピクと動き、マッギルが眠りに落ちようかという時、彼の注意を引いたものがあった。眼を覚まし、何かの動きを察知して見回すと、付き人がいなくなっていることに気づいた。瞬きをし、混乱した。付き人が自分を一人きりにしたことなどない。事実、最後にこの部屋でたった一人になったのがいつか思い出せないくらいだ。下がってよいと命じた覚えはない。更に変なのは、扉が開いたままになっていることだ。

その時、部屋の向こう側から音がするのが聞こえ、マッギルは振り向いて見た。壁に沿って忍び寄るように、黒いマントを羽織ってフードを目深にかぶった、背の高い痩せた男が影からたいまつの灯りの下に現れた。マッギルは、本当に見えていることなのだろうか、と思いながら何度も瞬きをした。最初は、ゆらゆら揺れるたいまつによる眼の錯覚、ただの影だと確かに思った。

しかしそれはあっという間に近付き、素早くベッドのところまで来た。誰なのか、マッギルは暗がりの中で焦点を合わせて見ようとした。思わず起き上がり、かつて戦士だった王は、刀、あるいは少なくとも短剣を差しているはずの腰に手をやった。だが衣服を脱いだ後だったため、武器は身につけていなかった。丸腰のままベッドに腰掛けた状態だった。

男は動きが速く、夜の蛇のように近づいた。マッギルは、身を起こした時にその顔を見た。部屋は未だにぐるぐると回って見える。酔いのためにはっきりとわからない状態ながらも、一瞬で自分の息子の顔だと確信した。

ガレスが?

マッギルの心が突然パニックに襲われた。こんなに夜遅くに予告もなく現れ、彼はいったいここで何をしているのだろう?

「お前なのか?」声をかけた。

マッギルは彼の目に殺意を見た。それだけわかれば十分だった。ベッドから飛び出た。

だが相手の動きは素早く、跳ぶように行動に移った。マッギルが手を挙げて防御の構えを取ろうとする前に、金属のきらめきがたいまつの灯りの中に見えた。あまりにも速く、刃が宙を破り彼の心臓を突いた。

マッギルが叫んだ。深く、暗い、苦悶の叫びだった。自分のあげた叫び声に驚いた。戦闘のさなかに何度となく聞いたことのある声。致命傷を負った戦士の叫び。

マッギルは冷たい金属が自分のあばらを貫くのを感じた。筋肉を押し破り、血と交わり、ずっと深くまで押し入る。想像を絶する痛み、まるで刃が永遠に突き進んでいくかのようだ。マッギルは大きく喘ぎ、熱い、塩辛い血が口の中に満ちてくるのを、呼吸が困難になっていくのを感じた。力を振り絞ってフードに隠れた顔を見上げ、驚いた。息子ではなかった。別の誰か、知っている顔だ。誰かは思い出せないが、身近な者だ。息子に似た。

名前を思い出そうとしたが、頭が混乱していた。

男はナイフを持ったままマッギルの前に立ちはだかった。マッギルは、男を止めようとしてなんとか挙げた手を相手の肩に置いた。かつての戦士としての力が自分の中に湧き起こるのを感じた。先祖たちの力、自分を王たらしめてきた、決して降参などしない、自分の奥深くにあるもの。全身の力を振り絞って暗殺者を突き、なんとか押し返した。

男はマッギルが思ったよりも痩せて弱く、叫び声をあげながら後ろにつまづいたかと思うと、よろめいて部屋を横切って行った。マッギルはやっとのことで立ち上がって胸に手をやり、ナイフを抜いた。そして部屋を横切るようにそれを投げつけた。ナイフは石の床に音を立てて落ち、そのまま滑って向こう側の壁にぶつかった。

男はフードが下がって肩の回りに広がり、這い回りながら、マッギルに圧倒されて恐怖に目を見開いた。そして振り向くと部屋の中を走って横切り、短剣を拾っただけで急いで逃げて行った。

マッギルは追いかけようとしたが男は素早かった。そして胸を突き刺す痛みが突然湧き起こった。弱ってきていると思った。

一人きりで部屋に立ち尽くし、胸から手に血が滴り落ちるのを見ていた。やがて膝をついた。

身体が冷たくなってきていた。仰向けに横たわり、人を呼ぼうとした。

「衛兵。」弱々しい声だった。

深呼吸をし、苦しみに悶えながら、深みのある声を絞り出した。王の声だ。

「衛兵!」マッギルは叫んだ。

遠くの回廊から、足音がゆっくりと近づいてくるのが聞こえた。遠くの扉が開かれる音を聞き、人が近づいてくるのを感じた。だが目がまた回り始めた。今度は酔いのためではなかった。最後に彼が見たのは、顔に近づいてくる冷たい石の床だった。




第二章


ソアは巨大な木の扉に付いている鉄のノッカーをつかみ、力をこめて引いた。扉はゆっくりと音を立てて開いた。目の前には王の部屋が広がる。一歩足を踏み入れ、敷居をまたぐと、腕の毛がぞくっとするのを感じた。まるで霧のように空気中を満たす、偉大な暗闇がそこにはあった。

ソアは室内に入って行った。壁のたいまつが音を立てている。床に横たわる死体のほうへ進んだ。それが王だということ、そして彼が殺されたのだということは既に感じ取っていた。自分が来るのが遅すぎたということも。衛兵たちは皆どこにいたのだろうと考えた。なぜ王を助ける者が誰もいなかったのか。

死体に近づくにつれ、ソアの膝は弱々しくなっていった。石の床に膝まづき、冷たくなった肩をつかみ、王の身体を仰向けに直した。

先の国王、マッギルだった。目を見開いたまま、死んでいる。

ソアが見上げると、付き人がそばに立っているのが目に入った。大きな、宝石をあしらった杯を手にしている。宴でソアが見つけたものだ。純金製でルビーとサファイヤの列に覆われている。ソアを見つめたまま、その付き人は王の胸にゆっくりと杯の中身を注いだ。ワインのしぶきがソアの顔に散った。

ソアは甲高い声を聞いた。振り向くと彼のハヤブサ、エストフェレスが王の肩に止まっていた。ソアの頬のワインをなめて拭った。

音がしたので振り返るとアルゴンが立っていた。厳しい面持ちで見下ろしている。手には輝く王冠が、もう片方の手には彼の杖があった。

アルゴンは歩み寄り、王冠をソアの頭にしっかりと載せた。ソアは王冠がきちんと頭に納まり、金属がこめかみを包むのを、その重さが沈み込むのを感じた。そして不思議そうにアルゴンを見た。

「今、そなたが王となった。」アルゴンが宣言する。

ソアは瞬きをした。そして目を開けると、リージョン、シルバー騎士団のメンバー全員、何百名もの男たち、少年たちが室内を埋め、彼のほうを向いていた。皆が一斉に膝まづき、顔を床に近づけんばかりにして彼に礼をした。

「我らが王」 一斉に声が上がった。

ソアは驚いて起き上がった。真っ直ぐに座り、息を荒くして周囲を見回した。暗く、湿った場所だった。壁に背中を付け、石の床に座っていることに気づいた。暗闇の中で目を細めると、遠くに鉄の柵と、その向こうには明滅するたいまつが見える。思い出した。牢獄だ。宴会の後、ここに連れてこられたのだった。

あの看守が彼の顔にパンチを食らわせたことを思い出し、気を失っていたに違いないと思った。どれくらいの間かはわからない。起き上がると、深く息をし、ソアは恐ろしい夢の記憶を払いのけようとした。あまりにも現実的だった。現実でないことを、王が亡くなってなどいないことを願った。死んだ王の姿が頭から離れなかった。ソアは何かを見たのだろうか?それともただの想像だろうか?

ソアは誰かが足の裏で自分を蹴っているのを感じ、見上げると目の前に立っている者がいた。

「そろそろ目を覚ましても良い頃かと思って。」声が聞こえた。「何時間も待っていたんだ。」

薄暗い光の中で、ソアは十代の少年の顔を見た。自分と同じぐらいの年頃だ。痩せて背が低く、頬はこけ、あばた顔だった。それでも緑色の目の奥には何かしら親切で知的なものが感じられる。

「僕はメレク。」彼は言った。「君の刑務所仲間だ。どうしてここに入れられたんだい?」

ソアは気持ちを引き締めようと、身を起こした。壁にもたれかかって髪を手ですきながら、思い出し、すべてを整理しようとした。

「みんな、君が王様を殺そうとしたって言ってるよ。」 メレクがしゃべり続けた。

「そいつは本当に王を殺そうとしたんだ。ここから出ようものなら八つ裂きにしてやる。」とげとげしい声がした。

ブリキのカップを金属の柵にぶつける、ガチャガチャという音が一斉に起こった。廊下に沿ってずっと監房があるのが見えた。ソアは、不気味な外見の囚人たちが柵から頭を突き出し、チラチラと明滅するたいまつの灯りの中で自分に向かってニヤニヤ笑っているのを見た。ほとんどの者がひげも剃っておらず、歯は欠けていた。中には、何年間もここに暮らしているように見える者もいた。恐ろしい光景だった。ソアは思わず目をそむけた。本当に自分はここに入れられたのか?この者たちと一緒にずっとここにいることになるのだろうか?

「あいつらのことは気にしなくて良いよ。」メレクが言った。「この監房には君と僕だけだからね。あいつらが入って来ることはできない。君が王に毒を盛ったのだとしても僕は気にしない。僕がそうしたいくらいだからね。」

「僕は王に毒を盛ったりなんかしていない。」ソアは憤然として言った。 「誰にも毒を盛ったりなんかしない。僕は王を救おうとしたんだ。ただ王の杯を払い落としただけなんだ。」

「どうして杯に毒が入っていたってわかったんだよ?」聞き耳を立てていた者が通路の向こうから叫んだ。 「魔法かい?」

皮肉っぽい笑い声が廊下のあちこちから一斉に響いてきた。

「霊能者だ!」誰かが嘲るように叫んだ。

他の者が笑った。

「いや、ただ運よく当たっただけだろうよ!」別の誰かが大声で言うと、皆は大喜びだった。

ソアはにらみつけた。こうした非難を嫌い、きちんと正したかった。だが時間の無駄だろうということもわかっていた。それに、この犯罪者たちを相手に自分を弁護する必要もなかった。

メレクはソアを観察し、他の者たちとは違って疑いの目では見なかった。じっくりと考えているように見えた。

「僕は信じるよ。」彼は静かに言った。

「本当に?」ソアが尋ねた。

メレクは肩をすくめた。

「王に毒を盛ろうというのに、わざわざ知らせるなんてばかなことをするかい?」

メレクは振り返って歩いて行った。監房の中の自分の側に向かって数歩行くと、ソアのほうを向いて壁にもたれかかって座った。

ソアは興味を持った。

「君こそどうして入れられたの?」ソアは聞いた。

「僕は泥棒さ」メレクは、どこか誇らしげに答えた。

ソアはぎょっとした。これまで泥棒に出会ったことなどなかった。本物の泥棒。物を盗むなんて考えたこともないため、そうする者がいるということにいつも驚いていた。 「どうしてそんなことをするの?」ソアが聞いた。

メレクは肩をすくめた。

「僕の家族には食べるものがないんだ。食べないとならないだろう。僕は学校にも行っていないし、何の取り得もない。僕が知っているのは盗むことだけだ。それ以外これと言って何もない。盗むのはほとんど食べ物だけだ。何とか家族が生きていけるだけのもの。何年も逃げ切って来たけれど、捕まった。捕まるのはこれで3回目だ。3回目っていうのは最悪だね。」

「どうして?」ソアが聞いた。

メレクは黙っていた。そしてゆっくりと首を振った。彼の目に涙がたまるのを見た。「国王の法律は厳しいんだ。例外はない。3回罪を犯したら、手を切り取るんだ。」

ソアは恐ろしくなった。そしてメレクの手を見た。まだそこにある。

「まだ僕のところへは来ていない。」メレクは言った。「でも そのうち来る。」

ソアはひどい気持ちになった。メレクは恥じているように目をそらした。ソアもそのことについて考えたくなかった。

ソアは気が変になりそうで、頭を抱えた。考えを整理しようとした。この数日間は本当に目まぐるしかった。短い間にたくさんのことが起きた。達成感があり、正当性を証明できたような気持ちがしていた。未来が見え、マッギルの服毒を予見して、王を救うことができた。運命は恐らく変えることができるのだろう。宿命は変えられるのかも知れない。ソアは王を救ったという誇らしさを感じた。

その一方で、自分は今こうして牢獄に入っている。自分の汚名をそそぐことができずにいる。希望や夢はすべて断たれた。リージョンにまた加わる可能性は消えた。ここで残りの人生を終えないで済むとしたら幸運と言えよう。まるで父親のように自分を迎え入れてくれ、自分にとって唯一の父であったマッギルが、彼を殺そうとしたのが自分だと思ったことに心が痛んだ。一番の親友リースが、自分が彼の父親を殺そうとしたと思うかも知れないのも辛かった。そして最悪なのがグウェンドリンのことだ。最後に会った時のことを思い起こした。自分が娼館に足繁く通っていたと彼女が信じるようになってしまったことを考え、自分の人生の良い部分が根こそぎ奪われたような気がした。なぜこんなことがすべて自分に起こるのだろうかと考えた。自分は良いことをしたかっただけなのに。

ソアには、自分がこれからどうなるのかわからなかった。気にもならなかった。ただ自分の汚名を返上したいだけだ。王を傷つけようとなどしていないこと、彼の持つ力で未来が本当に見えたのだということを皆にわかってもらいたかった。先のことはわからなかったが、ここをどうにかして出なければならないことだけははっきりしていた。

ソアがそんなことを考えているうちに、重いブーツで石の廊下をドシンドシンと歩く足音が聞こえた。鍵の音がし、その直後にがっしりした看守が現れた。ソアをここに連れてきて、顔にパンチを食らわせた男である。その顔を見るなりソアは初めて頬の痛みに気づき、嫌悪感を感じた。

「さて、王様を殺そうとした小僧がいなかったら」看守が錠に入れた鉄の鍵を回し、にらみながら言う。カチリという音が何度か響いた後、看守は手を伸ばして監房の扉を引いた。片手に枷を持ち、腰には小さな斧を下げている。

「お前にはお前の罰が下るさ。」彼はソアを鼻であしらい、メレクのほうを向いた。「今はお前の番だ。こそ泥め。3回目だな。」悪意に満ちた笑みを浮かべて、「 例外はない。」と言った。

メレクに飛びかかって彼を乱暴につかむと、片方の腕を背中のほうへ引っ張って手枷をはめ、反対側を壁のフックにはめた。メレクが叫び声を上げ、手枷をはずそうと強く引っ張ったが、無駄だった。看守はメレクの後ろに回ってつかみかかり、抱きかかえると、枷をはめていない側の腕を取って石の棚の上に置いた。

「盗みを働かないよう教えてやる。」看守が言った。

そしてベルトから斧を取り、口を大きく開け、醜い歯を見せながら、斧を頭上高く振り上げた。

「やめて!」メレクが叫んだ。

ソアはそこに座ったまま、看守がメレクの手首めがけて武器を振り下ろそうとする間、恐怖で釘付けになっていた。数秒後にはこのかわいそうな少年の手が永遠に切り取られることがわかっていた。家族に食べさせる物を手に入れようとして犯してしまった、ちょっとした盗みのために。理不尽だという思いがソアの心の中で燃え上がった。こんなことを許すわけにはいかないとわかっていた。あまりにも不当だ。

ソアは全身が熱くなるのを感じた。熱く燃える感覚が両足から上って来て手へと流れた。時間がゆっくりと流れるのが感じられ、男の斧が宙にあるうちに、一秒の中のすべての瞬間に、男よりも素早く動いていた。手の中に燃えさかるエネルギーの球を感じ、看守に向かってそれを投げつけた。

自分の手から黄色い球が宙を伝い、尾を引いて暗い監房を照らしながら、看守の顔にまっすぐ飛んで行くのを呆然と見つめた。球は頭に当たって斧が手から落ち、看守は飛ばされて監房を横切り、壁に当たって倒れた。斧の刃がメレクの手首に届くすんでのところで、ソアは彼を救ったのだった。

メレクは目を見開いて、ソアを見た。

看守は頭を振りながら、ソアを取り押さえるため起き上がろうとした。ソアは自分の中の力を感じ、看守が立ち上がってこちらを見た瞬間、走って空中を飛び、彼の胸を蹴った。自分でも気づかなかった力が体中をめぐり、大男を宙へ蹴り飛ばした時に割れるような音を聞いた。男は宙を飛んで壁にぶつかった後、床の上に塊となって落ちた。今度は気を失うまでに打ちのめされた。

メレクはショックを受けて立ち尽くしていた。ソアはどうしたらよいかわかっていた。斧を手に取ると、急いでメレクのところへ行き、石につながれた手枷を切った。鎖が切られる時、大きな火花が散った。メレクはひるみ、やがて顔を上げて鎖が足まで垂れているのを見て、自分が自由になったことに気づいた。

ソアを見つめ、開いた口が塞がらなかった。

「何てお礼を言ったらよいのか、わからない。」メレクが言った。「あれが何にせよ、どうしたらあんなことができるのか、そして君が誰なのか、あるいは何なのか、全く見当もつかないけれど、僕の命を救ってくれたのは確かだ。借りができた。これはとても重要なことだと思っている。」

「借りなんて何もないよ。」ソアは言った。

「そんなことはない。」メレクは手を伸ばして、ソアの腕を取りながら言った。「君はもう僕の兄弟だ。そして僕はどうにかして借りを返す。いつか絶対。」そう言うと、メレクは振り返って開けっ放しの扉から急いで出て行き、他の囚人たちが叫んでいる廊下へと走って行った。

ソアは気を失っている看守と、開け放たれた扉を見やり、自分も行動を起こすべきだと思った。囚人たちの叫びは一層大きくなった。

ソアは外に出て左右を見回し、メレクとは反対方向に行くことにした。二人を同時に捕まえることはできないだろう。




第三章


ソアは一晩中走り続けた。騒がしさに驚きながら、宮廷の混然とした通りを抜け手行った。街は混雑し、人々が動揺した様子で道を急いでいた。たいまつを手にしている者が多く、夜の街を照らし、顔にくっきりとした影を投げかけていた。城の鐘が絶え間なく鳴らされている。一分に一度、低い音で鳴る鐘だ。それが何を意味するかソアにはわかっていた。死だ。死の鐘。今夜、この鐘が鳴らされる者があるとすれば、王国ではたった一人しかいない。王だ。

ソアはそう考え、心臓が鳴った。夢の中の短剣が脳裏をよぎった。あれは本当だったのか?

確かめなければならなかった。通行人、反対方向に走って行く少年を捕まえた。

「どこへ行くんだ?」ソアは詰問した。「この騒ぎは一体何なんだ?」

「聞いてないのかい?」少年はひどく興奮して言い返した。「王様が今にも亡くなろうとしているんだ!刺されたんだよ!知らせを聞こうと、人が大勢宮廷の門に集まってる。もし本当なら、大変なことだ。王のいない国なんて考えられるかい?」

そう言うと、少年はソアの手を押しのけ、振り向くと夜の街へと走り去って行った。ソアは立ち尽くした。心臓が激しく鳴っている。周りで起きている現実を認めたくない気持ちだった。自分が見た夢、虫の知らせは幻想ではなかった。未来を見たのだ。二回も。そのことにソアは恐怖を感じた。自分が思っているよりも自分の力は深遠だ。そして日に日に強まっていく。これからどうなるのだろう?

ソアは立ったまま、次はどこへ行くべきか考えた。脱獄はしたものの、どこへ行くべきか全くわからない。 直に衛兵たちが、そして宮廷の誰もが自分を探すに違いない。逃亡の事実によって、自分は一層怪しく映るだろう。だが一方で、ソアが牢屋にいる間にマッギルが刺されたとなれば、それは彼にかかっている疑いを晴らしてくれるのではないか?あるいは陰謀に加担しているように見えるだろうか?

ソアは危ない賭けに出ることはできなかった。明らかに、今、合理的な考えに耳を傾ける気分になれる者など王国にはいない。周りの誰も彼もが殺意を抱いているように見えた。そして自分は恐らくいけにえの羊になるであろう。隠れ家を見つける必要があった。嵐を切り抜け、汚名をそそぐことのできる場所。安全な場所はここからは遠くなるだろう。逃げて、自分の村に避難したほうがよい。いや、それよりももっと遠く、行ける限り、一番遠くへ。

しかし、最も安全な方法をとろうとは思わなかった。ソアはそういう人間ではないのだ。ここに留まり、汚名をそそぎ、リージョンでの地位を保ちたかった。彼は臆病者ではなかった。そして逃げもしなかった。何よりも、亡くなる前にマッギルに会いたかった。まだ生きているとして。会う必要があった。暗殺を止められなかったことへの罪の意識にさいなまれていた。ソアに何も成すすべがないとすれば、なぜ王の死を目撃する運命にあったのか?そして、王が実際は刺されるというのに、なぜ毒を盛られるところを心に描いたのだろうか?

立ったまま考えを巡らすうち、ソアはリースに思いが至った。リースはソアが唯一信頼できる人物だ。自分のことを当局に引き渡したりなどしない。安全な居場所さえ用意してくれるかも知れない。リースなら自分のことを信じてくれるような気がした。ソアが王のことを純粋に慕っているのを、リースは知っている。ソアの名誉を挽回してくれる人がいるとしたら、それはリースだ。彼を見つけなくてはならない。

ソアは裏道を全力で走り出した。人の流れに逆らってあちこちを曲がり、宮廷の門とは反対方向に、城に向かって行った。リースの部屋が、市の外壁に近い建物の東翼にあるのは知っていた。リースがそこにいることだけを願った。もしいれば、気が付いてもらい、城に入る方法を見つけてくれるかも知れない。ソアは、外にいるのが長引けばすぐに見破られてしまうだろうと考え、気分が落ち込んだ。もし群衆が自分に気づけば、自分は八つ裂きにされてしまうだろう。

道から道へと進み、夏の夜のぬかるみに足を滑らせながら、やっと城の石造りの外壁までたどり着いた。数フィートごとに配置され、警戒する衛兵たちの視線のちょうど下を壁にぴったりと沿うように走った。

リースの部屋の窓に近づくと、下に手を伸ばして表面のなめらかな石を一つ拾った。幸運にも、取られずに済んだ唯一の武器が、使い慣れ、頼りにしてきた投石具だった。腰からそれを出し、石をはめて投げた。

ソアのねらいの確かさで、石は城壁を越え、リースの部屋の開け放たれた窓に向かって飛んだ。室内の壁に当たる音を聞いた後、その音にギクリとした衛兵に見つからないよう、壁に沿って低くかがみながら待った。

しばらくは何も起こらなかった。結局リースは部屋にはいなかったのだと思い、気が沈んだ。いないなら、ソアはこの場所から逃げなくてはならない。安全な逃げ場を得る方法は他にはないのだから。リースの部屋の開いた窓の部分を見つめ、息をこらして待つ間、心臓がどきどきした。

かなり長いこと待った気がした。顔をそむけようとしたちょうどその時、窓から顔を出して両手を窓枠のところに置き、不思議そうな面持ちで外を見回す姿が見えた。ソアは立ち上がり、壁から数歩素早く離れ、片腕を高く上げて振った。リースが下を向き、ソアに気づいた。ソアの姿を認めて表情が明るくなった。たいまつの灯りで、ソアの場所からもはっきりと見えた。嬉しそうな顔を見て、ソアは安心した。それで知りたかったことのすべてがわかった。リースは自分を売ったりしない。

リースが待つように合図したので、ソアは壁に急いで戻り、ちょうど衛兵が向きを変えたとき低くしゃがんだ。

いつでも衛兵から逃げられるよう態勢を整えながら、どれくらい待っただろう。外壁のドアから飛び出るように、やっとリースが現れた。息を切らして左右を見回し、ソアを見つけた。

リースは急いでやって来て、ソアを抱きしめた。ソアは嬉しかった。キーキーという声が聞こえ、見下ろすとリースのシャツにくるまれたクローンがいた。リースがソアに渡す時には、クローンはシャツから飛び出さんばかりだった。

成長し続ける白ヒョウの子ども、クローンは、ソアがかつて助けたあげたのだった。ソアの腕に飛び込み、抱きしめてやると、泣きながらソアの顔をなめた。

リースは微笑んだ。

「あいつらが君を連れていった時、クローンはついていこうとしたんだ。だから僕が捕まえておいた。危ない目にあわないように、と思って。」

ソアはリースの腕をつかんで、感謝の気持ちを表わした。そしてクローンがあまりにも自分のことをなめ続けるので、笑った。

「僕も寂しかったよ。」そう言って、ソアもクローンにキスして笑った。「静かに。衛兵に聞こえるかも。」

クローンも理解したかのように黙った。

「どうやって逃げたの?」リースが驚いて尋ねた。

ソアは肩をすくめた。何と言ったら良いかわからなかった。自分の力について話すのは今でもあまり居心地が良くなかった。自分でもよくわかっていないのだ。奇人のように他人から思われたくなかった。

「きっとついていたんだよ。」そう答えた。「チャンスがあって、その時に。」 「みんなが君をつるし上げなかったのが驚きだ。」リースが言った。

「暗かったからね。」ソアが言った。「誰にも僕だとわからなかったと思う。今のところはね。」

「王国の兵士が全員君のことを探しているのは知ってる?父が刺されたのは知っているかい?」

ソアは真剣な顔で頷いた。「大丈夫なのか?」

リースの表情が沈んだ。

「いや。」険しい顔付きで答えた。「危険な状態だ。」

ソアは、まるで自分の父親であるかのように打ちのめされた気がした。

「僕が関わっていないのはわかってくれるよね?」ソアはそう願いながら聞いた。他の者がどう思おうと気にならなかったが、マッギルの末息子である自分の一番の友には、自分が無実であることをわかって欲しかった。

「もちろんだよ。」リースが言った。「でなければ、今ここにいないよ。」

ソアはほっとした。感謝してリースの肩を抱いた。

「でも、王国全体は僕ほど信用していない。」リースが付け加えた。「君が安全なのはここから遠い場所だ。僕の一番速い馬と、必要な物を用意して、遠くへ行けるようにする。すべてが治まるまで隠れていなければならない。真犯人を見つけるまで。今は誰も落ち着いて考えられないから。」

ソアは首を振った。

「僕は行けない。」ソアが言った。「そうすれば怪しく見える。僕がやっていないということを知ってもらう必要がある。問題からは逃げられない。汚名をそそがなければ。」

リースは首を振った。

「ここにいれば、君は見つかる。また牢屋へ逆戻りだ。そして処刑される。それまでに群衆に殺されなければね。」

「そういうことも受けて立たないと。」ソアが言った。

リースは長いことじっとソアを見つめた後、懸念から賞賛の面持ちに変わった。最後に、ゆっくりと頷いた。

「君は誇り高い。そしてばかだ。ものすごくばかだ。だから好きなんだ。」

リースが微笑んだ。ソアも微笑み返した。

「お父上に会う必要がある。」ソアが言った。「僕ではないと、何にも関係していないと、直にご説明する機会が必要なんだ。もしお父上が僕に判決を下すなら、そうなったって良いさ。でも、チャンスが欲しい。わかっていただきたいんだ。お願いしたいのはそれだけだ。」

リースは友の言うことを整理しながら、真剣に見つめ返した。長いこと経ってからやっと頷いた。

「父のところに案内はできる。裏の通路を知っているから。父の部屋につながっているんだ。でも危険が伴う。一度部屋に入ったら、自分でなんとかしなければならない。出口はないからね。その時点で僕ができることは何もない。君は死ぬことになるかも知れない。本当にそんなことに賭けたいのか?」

ソアは本気で頷き返した。

「良いだろう。」リースが言った。そして突然手を伸ばし、ソアにマントを投げた。

ソアはそれを取り、びっくりした見た。リースがずっと計画していたのではないかと気づいたのだ。

ソアが見上げると、リースが微笑んだ。

「ここに留まる、ってばかなことを言うのはわかってたよ。自分の親友が言うのはそれ以外考えられないからね。」




第四章


ガレスは部屋の中で歩きながら、その夜起こったことを不安な気持ちで思い起こしていた。宴会で起きたことが信じられなかった。なぜすべてが失敗に終わったのか。あの愚かな少年、よそ者のソアに、どうやって自分の服毒計画をかぎつけ、そのうえ杯を途中で奪うということができたのか、さっぱりわからなかった。ガレスは、ソアが飛び込んで来て、杯を叩き落した瞬間を思い出した。杯が落ちる音を聞き、ワインが床にこぼれて自分の夢や野望もそれと共に流れていくのを見た。

その瞬間、ガレスは打ちのめされた。それまで目標にしてきたことが打ち砕かれたのだ。そしてあの犬がワインをなめて死んだ時、自分は終わったと思った。自分の今までの人生がすべて脳裏をよぎり、父親を殺そうとしたことが見つかって終身刑を言い渡されるのを思い描いた。もっと悪いことには、死刑に処せられるかも知れない。愚かだった。こんな計画を立てるのも、あの魔女を訪ねることも、するべきではなかった。

少なくとも、ガレスの行動だけは素早かった。賭けに出て、飛び出し、ソアを最初に非難した。思い出すにつけ、自分が誇らしく思える。なんと素早い反応だったろう。 考えがひらめいた瞬間だった。そして驚いたことに、それが効を奏した。ソアは連行され、その後は宴もまた落ち着いたようだった。もちろん、前と同じ状態というわけにはいかない。だが少なくとも、疑惑はあの少年に向いたようだった。

ガレスは事態がそのままであってくれることを願った。マッギル家の者を狙った暗殺未遂があってから数十年が経っていたため、この出来事に対する取り調べがより本格的に行われることになるのでは、と恐れた。考え直すと、毒を盛ろうなどというのは愚かだった。父は無敵だ。ガレスはそのことを知っていたはずなのに、無理をし過ぎた。そして今では、疑いが自分に向くのも時間の問題だと考えずにはいられなかった。手遅れになる前にソアの罪を証明し、彼が処刑されるためにできることは何でもしなければならないだろう。

ガレスは、少なくとも自分の失敗の埋め合わせはした。未遂に終わった後、暗殺を中止し、今はほっとしていた。計画が失敗し、自分の中のどこか奥のほうで、本当は父を殺したくない、手を汚したくない、という気持ちがあることに気づいた。自分は王位にはつかない。王にはならないだろう。今夜の出来事を経て、そのことを受け止められた。少なくとも、自分は自由でいられる。秘密、裏工作、常に付きまとう、見つかることへの不安。こうしたストレスに対処することは自分にはもうできない。ガレスには重荷だった。

歩き続けているうちに夜も更け、やっと少しずつ落ち着いてきた。自分らしさを取り戻して、ちょうど休もうとしていたところに、突然衝突音がしたので振り返ると、扉が開くのが見えた。ファースが目を見開き、まるで追っ手が来るかのようにひどく取り乱して部屋に飛び込んで来た。

「死んだよ!」ファースが叫んだ。「死んだんだ!僕が殺した。死んだよ!」

ファースは半狂乱で声を上げて泣いていた。ガレスはファースが何を言っているのかわからなかった。酔っているのか?

ファースは叫び、泣きわめき、手を挙げて部屋中を走り回った。その時、ガレスはファースの手が血だらけなのに気づいた。黄色のチュニックにも血のしみが付いていた。

ガレスは心臓がドキッとした。ファースは人を殺してきたのだ。でも一体誰を?

「誰が死んだって?」ガレスは詰問した。「誰のことを言っているんだ?」

ファースは気が狂ったようになっていて、集中することができない。ガレスは走って近づくと、腕をつかみファースを揺さぶった。

「答えるんだ!」

ファースは目を開けて、野生の馬のような目をしてじっと見つめた。

「君の父上だよ!王様だ!僕の手で殺したよ!」

その言葉でガレスは自分の心臓がナイフで突かれたような気がした。

目を大きく開け、凍り付き、全身が萎えていくのを感じながら見つめ返した。握っていたこぶしを緩め、後ろに退いて、息を静めようとした。血を見て、ファースが本当のことを言っているのはわかった。どういうことか推測することさえできなかった。馬屋の少年のファースが? 自分の友達のうちで最も意志の弱い者が父を殺した?

「でも・・・どうしてそんなことができるんだ?」ガレスは息を呑んだ。「いつ?」

「王の部屋で」ファースが言う。「たった今、刺してきた。」

このニュースが現実味を帯び、ガレスは冷静になった。扉があいていることに気づき、走って行って衛兵が誰も見ていないことを確かめてからバタンと閉めた。幸い、回廊には誰もいなかった。ガレスは重い鉄のかんぬきをかけた。

急いでもとのところへ戻った。ファースはまだ興奮していて、落ち着かせなければならない。答えてもらう必要があった。

ガレスはファースの肩をつかんでこちらに向かせ、手の甲で叩いて止めさせた。ファースはやっと自分に注意を向けた。

「全部話すんだ。」ガレスは冷たく命じた。「起きたことを全部言うんだ。どうしてこんなことをした?」

「どうして、ってどういうこと?」ファースが混乱して聞いた。「殺したがっていたじゃないか。毒は失敗したから、手伝おうと思って。君がそうして欲しいだろうと思ったんだ。」

ガレスは首を振った。ファースのシャツをつかみ、何度も揺さぶった。

「なんでこんなことをしたんだ!?」ガレスは叫んだ。

世界中が崩壊していくような気がした。ガレスは、自分が父に対して良心の呵責さえ感じていることにショックを受けた。理解できなかった。たった数時間前まで、父が食卓で毒を飲んで死ぬことを望んでいたのに。今、父が殺されたことで親友が死んだかのようにショックを受けている。後悔の念に打ちのめされている。自分の中のどこかでは父に死んで欲しくないと思っていた。特にこんな風には。ファースの手によってなんか。剣でなんか。

「わからないよ。」ファースが哀れっぽい声で言った。「ちょっと前まで自分で王を殺そうとしていたじゃないか。杯で。喜んでくれると思ったのに!」

自分でも驚きながら、ガレスは手を挙げてファースの顔を叩いた。

「こんなことをしろとは言っていない!」ガレスが吐き出すように言った。「こんなことをしろとは言っていないからな。どうして殺した?見てみろ。お前は血だらけじゃないか。もう僕たちは終わりだ。衛兵たちが僕らをつかまえるのは時間の問題だ。」 「誰も見ていないよ。」ファースは主張した。「衛兵の交代の時に抜け出したから、誰も見ていない。」

「武器はどこだ?」

「置いてこなかったよ。」ファースは自慢げに言った。「そんなに馬鹿じゃない。処分した。」

「どの剣を使った?」ガレスはそれがどういう意味を持つか考えながら聞いた。後悔が懸念へと変わった。このばか者が残したかも知れない手がかりを逐一思い描いた。自分にたどりつくかも知れない手がかりのすべてを。

「突き止められないのを使ったよ。」ファースは誇らしげに言った。「誰のでもない、切れ味の悪いやつだ。馬屋にあった。他にも同じようなのが4本ある。自分だとはわからないさ。」そう繰り返した。

ガレスは血の気が引いた。

「短い剣だったか?柄が赤くて刃にカーブがついてる。僕の馬の脇の壁にかかっていたのかい?」

ファースはいぶかりながら頷いた。

ガレスがにらみつけた。

「ばか者め。誰のものか突き止められる剣だぞ!」

「でも何も彫られていない!」ファースは怖くなり、声を震わせて言い返した。

「刃には印がないが、柄にあるんだよ!」ガレスが叫んだ。「下のところに!ちゃんと見なかったんだな。このばか者。」ガレスは顔を赤くして前に出た。「僕の馬の記章が下に彫られている。王家を知る者なら誰でもあの剣が僕のものだと突き止められる。」

ガレスは途方に暮れているファースを見つめた。彼を殺してしまいたかった。

「あれをどうした?」ガレスが詰め寄る。「まだ持っていると言ってくれ。持って帰ってきたと。頼む。」

ファースは息を呑んだ。

「注意して捨てたよ。誰にも見つからない。」

ガレスは顔をしかめた。

「どこだ?」

「石の落とし樋に捨てた。城の室内用便器の中だ。中身を毎時間川に捨てている。心配しないで。今頃は川の底だ。」

城の鐘が突然鳴った。ガレスは振り返って開いた窓へと走った。心が乱れている。外を見ると、下で起きている混乱や騒ぎが目に入った。群衆が城を取り囲んでいる。鐘が意味することはただ一つ。ファースは嘘をついていない。王を殺したのだ。

ガレスは全身が氷のように冷たくなるのを感じた。自分がそれほど大きな悪事を引き起こしたとは想像できなかった。そしてよりによってファースがそれをやってのけたとは。

突然、扉を叩く音がした。そして扉が開くと、衛兵が数人飛び込んで来た。一瞬、ガレスは自分たちが逮捕されるのだと思った。

だが驚いたことに、彼らは止まって直立不動の姿勢を取った。

「殿下、父君が刺されました。暗殺者はまだ捕まっていません。安全のため、部屋にいらして下さい。王は重傷を負っておられます。」

その最後の言葉にガレスのうなじの毛が逆立った。

「怪我を?」ガレスが繰り返した。のどにその言葉が突き刺さった。「ではまだ生きておられるのだな?」

「はい、殿下。神が王とともにおられます。生き延びて、この凶悪な行為が誰の仕業か知らせてくださるでしょう。」

短く敬礼をすると、衛兵は急いで部屋を出て行き、音を立てて扉を閉めた。

ガレスの怒りは頂点に達した。ファースの肩をつかんで部屋の中をひきずって行き、石の壁に叩き付けた。

ファースは恐れおののいて言葉を失い、目を見開いて見つめ返した。

「何をした?」ガレスが叫んだ。「もう二人ともおしまいだ

「でも・・・でも・・・」ファースはどもった。「・・・絶対死んだと思ったんだ!」

「何でも確かだと思うんだな。」ガレスは言った。「そしてそれが全部間違ってる!」

ガレスに考えが浮かんだ。

「あの短剣だ」ガレスが言った。「手遅れになる前に、あれを取り返すんだ。」

「でも捨ててしまったよ。」ファースが言う。「川に流れてったよ!」

「室内用便器に捨てたんだろ。それがすなわち川に行ったということにはならない。」 「たいていはそうなるよ!」ファースが言った。

ガレスはこの愚か者のへまにはもう我慢できなくなっていた。ファースの前を通り過ぎてドアから出て行った。ファースが跡を追う。

「一緒に行くよ。どこに捨てたか教える。」ファースが言った。

ガレスは回廊で足を止め、振り向いてファースを見つめた。彼は血だらけだ。衛兵が見つけなかったのが驚きだ。運が良かったのだ。ファースは今まで以上に障害となる。 「一度しか言わないぞ。」ガレスがにらんだ。「今すぐ僕の部屋へ戻って服を着替えろ。そして着ていたものを燃やすんだ。血がついているものはすべて処分してこの城から消えろ。今夜は僕から離れていてくれ。わかったか?」

ガレスはファースを押しのけると、向きを変えて走って行った。回廊を走り、石造りのらせん階段を召使たちの居るところへ向かって何階も駆け下りた。

やがて地下に入ると、数人の召使がこちらを向いた。鍋や湯を沸かすためのバケツを磨いているところだった。レンガ造りの窯では火が燃え盛り、召使たちはしみだらけのエプロンを着け、汗だくになっていた。

ガレスは、部屋の向こう側に室内用便器を見つけた。汚物が落とし樋を伝って毎分落ちてくる。

ガレスは近くにいた召使に駆け寄り、腕をつかんだ。

「あの便器を最後に空にしたのはいつだ?」ガレスは聞いた。

「ほんの数分前に川を持っていきましたよ、殿下。」

ガレスは振り返り、部屋から駆け出して行った。城の回廊を走りぬけ、らせん階段を上って、ひんやりした空気の屋外へと飛び出した。

草原を駆け抜け、息を切らしながら川に向かって全力で走って行く。

川に近づくと、岸辺の大きな木の陰に身を隠す場所を見つけた。二人の召使が室内用便器を持ち上げて傾け、川の急な流れに中身を空けるのを見ていた。

便器を逆さにして中を全部空にし、二人が便器を持って城に向かって歩いて行くまで見届けた。

やっとガレスは満足した。誰も短剣を見つけてはいない。それが今どこであろうと、川の中だ。どこかわからないところに流されて行っている。もし父が今夜亡くなったら、殺人者までたどり着く証拠はもう残っていない。

あるいは残っているだろうか?




第五章


ソアはクローンを後ろに従え、王の部屋に続く裏の通路を進むリースの跡をつけて行った。リースは石の壁に隠された秘密の扉を通って案内し、狭い場所を一列で進み、頭がクラクラするほどあちこちを曲がりくねりながら城の心臓部を通っていく際、たいまつを持って導いてくれた。狭い、石の階段を下ると別の通路につながっていて、曲がると目の前にまた別の階段があった。ソアはその複雑さに驚いた。

「この通路は何百年も前、城の中に作られた。」リースが息を切らして上りながらささやくように説明した。「僕の父のひいおじいさん、三代目のマッギル国王が作ったんだ。城の包囲があった後、逃げ道として作らせた。皮肉なことに、それ以来包囲は起きていなくて、この通路は何世紀も使われていない。板で塞がれていたのを、僕が子どもの時に見つけた。どこにいるか、誰にも知られないで城の中を行き来するのに時々使うのが好きだったんだ。子どもの頃、ここの中でグウェンとゴドフリーと僕とでかくれんぼをしたんだ。ケンドリックはもう大きかったし、ガレスは僕たちとは遊びたがらなかった。たいまつは使わない、それがルールだった。まったくの暗闇だよ。その頃はそれが怖かった。」

ソアは、リースが名人芸ともいえる絶妙な通路の案内をしてくれるのになんとかついて行こうとしていた。隅々まで頭に入っているのは明らかだった。

「こんなに曲がるのをどうやって全部覚えられるんだい?」ソアは敬服して聞いた。

「子どもがこの城で成長していくのはさみしいものだ。」リースは続けた。「特にみんなが年上で、リージョンにもまだ小さくて入れないとなると、他に何もすることがない。ここの隅から隅まで知り尽くすことを目標にしたんだ。」

二人はまた曲がり、石段を3段下った。壁の狭い抜け穴をくぐって曲がり、長い階段を下りた。やっと分厚い樫の扉までたどり着いた。ほこりをかぶっていた。リースは片耳を当てて聞き入った。ソアがそばに寄る。

「このドアは何?」ソアが聞いた。

「しーっ」リースが言った。

ソアは黙って、自分の耳も扉に当てた。クローンはソアの背後で見上げている。

「ここは父の部屋の裏口だ。」リースがささやいた。「誰が中にいるか知りたいんだ。」

ソアは中のくぐもった声に聞き耳を立てた。心臓が鳴っている。

「中は満員のようだ。」リースが言った。リースは振り返って、意味ありげな目付きをした。

「君は猛烈な非難の嵐の中に入っていくことになるな。将軍たち、議員、顧問団、家族、みんなだ。全員が君のことを警戒していることは確かだ。暗殺者だと思われているからな。リンチを行おうとする群衆の中に入っていくようなものだ。もし父が、君が殺そうとしたと未だに思っているなら、君はおしまいだ。本当に入りたいか?」

ソアは息を呑んだ。今行かなければ、もうチャンスはない。これが自分の人生の転機の一つだと思うと、喉の渇きを覚えた。今引き返して逃げるのは簡単だ。宮廷から遠く離れ、どこかで安泰な人生を送れるだろう。あるいは、この扉の向こうへ行き、残りの人生を牢獄で愚か者たちと暮らすことだってあり得る。そして処刑されることも。

深呼吸をして、決心した。悪魔に真っ向から立ち向かわなければならない。後戻りはできない。

ソアは頷いた。口を開くのも怖かった。そうすれば気が変わってしまうかも知れない。

リースも同意した表情で頷き返した。そして鉄の取っ手を押し、扉に肩を押し当てた。

ソアは扉が開いた時、まぶしいたいまつの光に目を細めた。王の部屋の真ん中に、クローンそしてリースとともに立っていた。

床に伏している王の周りには、少なくとも12人の人間が詰めかけていた。王の上に立っている者、跪いている者。周囲を取り囲んでいるのは、顧問と将軍たち、アルゴン、王妃、ケンドリック、ゴドフリー、そしてグウェンドリンもいた。死を控えた、徹夜の看病だった。そしてソアはこの家族のプライベートな場に侵入しようとしていた。

室内は陰鬱な雰囲気だった。皆、表情が重々しかった。マッギルは枕に支えられてベッドに横たわっていた。ソアは、王がまだ生きているのを見て安堵した。まだ今は。全員が一斉に顔を向け、ソアとリースが突然現れたことに驚いていた。石の壁の秘密の扉から部屋の真ん中にいきなり現れたのだから、どんなにか衝撃を受けただろうとソアは思った。

「あの少年だ!」立っていた者が憎しみを露わにソアを指差しながら叫んだ。 「王に毒を盛ろうとした奴だ!」

部屋のあちこちから衛兵がソアに向かって来た。ソアはどうしたら良いかわからなかった。振り向いて逃げ出したい気持ちもあったが、この怒りに燃えている人々に立ち向かわなければならないとわかっていた。王との仲を復活させなければならないと。そのため、衛兵が自分に駆け寄り、つかみかかろうとした時も覚悟をして身を引き締めた。そばにいたクローンがうなり、攻撃しようとする者たちを牽制した

ソアは立ちながら、突然自分の中に熱いものが湧き上がってくるのを感じた。力が湧き起こっている。無意識のうちに片手を上に挙げて、手のひらをかざし、自分のエネルギーを彼らに向けていた。

ソアは、一フィート手前のところで、凍りついたかのように兵士たちが歩を止めたことに驚いた。何であろうと、力はソアの中に湧き起こり、彼らを寄せ付けなかった。

「よくもここへ入り込んで、魔法を使うなどということができるな、小僧!」ブロム、王の最も偉大な将軍が、剣を抜きながら叫んだ。「王を一度殺そうとしただけでは足りないのか?」

剣を抜いたブロムはソアに近づき、その時ソアは何かが自分を圧倒するのを感じた。 今までにない強い感覚だった。ただ目を閉じ、集中した。ブロムの剣、その形、その金属にエネルギーを感じ、どうしたものか、自分がそのエネルギーと一体となった。それが止むよう、心の目で命じた。

ブロムは歩み寄る途中で凍りつき、目を見開いた。

「アルゴン!」ブロムが向きを変え、叫んだ。「この魔術をすぐに止めさせろ!この少年を止めるんだ!」

アルゴンは皆から進み出て、ゆっくりと頭巾を取った。力強い、燃える目でソアを見返した。

「彼を止める理由は見つからない。」アルゴンは言った。「人を傷つけるために来たのではないからだ。」

「気が変になったのか?あいつは我々の王を殺しかけたんだぞ!」

「そなたがそう思っているだけであろう。」アルゴンは言った。「私はそうは見ていない。」

「彼をそのままにさせなさい。」厳かな、深みのある声がした。

マッギルが身を起こした時、皆が振り向いた。王は弱々しく皆を見た。明らかに、話をすることが辛そうだった。

「その少年に会いたかった。彼は私を刺した者ではない。その男の顔を私は見た。彼ではなかった。ソアは無実だ。」

ゆっくりと、皆は衛兵の警戒を解いた。ソアも心を落ち着け、兵士たちを自由にした。彼らは、ソアがまるで別世界からの者か何かのように用心深く眺めながら、ゆっくりと剣を鞘に収め、下がって行った。

「彼に会いたい。」マッギルが言った。「二人きりでだ。あとの者は下がれ。」

「陛下」ブロムが言った。「本当にそれが安全だとお思いですか?陛下とこの少年と二人きりで?」

「ソアに手を触れてはならん。」マッギルが言った。「さあ、二人にしておくれ。全員だ。家族もだ。」

重い沈黙が室内に垂れ込めた。誰もが顔を見合わせ、明らかにどうしたら良いのかわからない、という風だった。ソアはその場に釘付けになって、起きたことすべてを整理できずにいた。

王族を含め、他の者は皆、列を作って一人ひとり部屋から出て行った。クローンはリースに預けられた。先ほどまで人で埋め尽くされていた王の部屋は、急にがらんとなった。

扉が閉められた。ソアと王だけが沈黙の中にいる。信じられなかった。マッギル王が青い顔をして痛みに苦しみ、横たわっている。そのことがソアを言葉に表わせないほど苦しめた。なぜかはわからないが、自分の一部までもがそのベッドで死にかけているような気がした。何よりも王に元気になって欲しかった。

「ここへ来なさい。」マッギルが弱々しく言った。ささやく程度の、かれた声だった。

ソアは頭を垂れ、すぐに王のもとに跪いた。王が力なく手首を差し出した。ソアはその手を取り、キスをした。

ソアが見上げると、マッギルが弱々しく微笑んでいた。ソアの頬に熱い涙が伝い、自分でも驚いた。

「陛下」ソアはもう自分の中に押しとどめておくことも出来ず、話し始めた。「どうか信じてください。私は毒を盛ったりなどしていません。自分でも知らない何らかの力によって、この計画を夢で知っただけなのです。陛下に警告したかっただけです。信じてください。お願いします。」

マッギルが手を挙げたので、ソアは黙った。

「そなたのことについては、私が間違っていた。」マッギルが言った。「別の誰かの手で刺されて初めてそなたではないとわかった。そなたはただ私を救おうとしてくれただけだ。許してくれ。そなたはずっと忠実であった。この宮廷で唯一の忠実な者かも知れぬ。」

「私の思っていることが間違っていればとどんなに願ったことでしょう。陛下が無事でいて下さればと。夢がただの幻であって、暗殺など起こらなければと。でも、これは間違っているかも知れません。陛下は良くなられるかも知れないのですから。」

マッギルは首を振った。

「逝く時が来た。」ソアに向かって言った。

ソアは息を呑んだ。そうであってくれるなと願いながらも、その時が来たと感じ取っていた。

「陛下は誰がこのようなことをしたかご存知なのですか?」ソアは夢を見たときからずっと自分の中でくすぶっていたことを尋ねた。誰が、そしてなぜ、王を殺そうと思うのか想像もできなかった。

マッギルは天井を見上げ、大儀そうに瞬きをした。

「男の顔は見た。よく知っている顔だ。だが、どういう訳か、誰だか思い出せないのだ。」

王はソアの方を向いた。

「今となってはどうでもよい。もうその時が来た。犯人が彼であるにせよ、別の者にせよ、結果は同じだ。今大事なのは」マッギルが手を伸ばし、ソアの手首を驚くほどの力で握って言った。「私がいなくなったあとに起こることだ。王のいない国になる。」

マッギルは、ソアには理解しがたいほどの強烈な眼差しで彼を見た。何と言っているのか、ソアには正確にはわからなかったが、自分に何かしら求めているとして、それが何かはわかった。ソアは聞きたかったが、マッギルにとっては呼吸をするのも大変なことが見て取れたので、中断させたくなかった。

「アルゴンはそなたのことで言っていたのは正しかった。」握っていた手をゆっくりと緩めながら言った。「そなたの運命は私のよりも偉大だ。」

ソアは、王の言葉に体中を電気が走るようなショックを受けた。自分の運命?王の運命よりも偉大?王がソアのことをわざわざアルゴンと話していたというのも理解しがたいことだった。そしてソアの運命が王のそれよりも偉大であると言ったこと – それは一体どういう意味だろうか?マッギル王は最期の瞬間に妄想に取りつかれたのだろうか?

「私はそなたを選んだ・・・私の家族に招き入れたのには理由がある。その訳がわかるかね?」

ソアは首を振った。どうしても知りたかった。

「なぜ私がそなたをここに置きたいと思ったかわからないか?最期にそなただけにここにいて欲しいと思った訳が?」

「申し訳ありません、陛下。」首を振りながらソアは言った。「わかりません。」

マッギルは弱々しく微笑んだ。目が閉じていく。

「ここからずっと離れたところに偉大な国がある。ワイルド、そしてドラゴンの国も越えたところだ。ドルイドの国だ。そなたの母はそこの出身だ。そなたは答えを得るためにそこへ行かねばならない。」

マッギルの目ははっきりと見開かれ、ソアには理解できない激しさをもってソアを見つめた。

「我々の王国はそれにかかっている。」マッギルは更に言った。「そなたは他の者とは違う。特別だ。自分が何者かそなたにわかるまで、我々の王国に平和が訪れることは決してないだろう。」

マッギルは目を閉じ、呼吸が浅くなってきた。呼吸するたびに喘いでいる。ソアの手首を握る手も徐々に弱くなってきた。ソアは自分の目に涙が浮かぶのを感じた。王が言ったことを理解しようとして、頭がぐるぐる回っている。集中などできなかった。すべてを正しく聞き取れたのだろうか?

マッギルは何かを囁こうとしたが、声が小さ過ぎてソアにはわからなかった。すぐそばにもたれかかり、耳をマッギルの口に近づけた。王は最期にもう一度頭を上げ、力を振り絞って言った。

「私の仇を討ってくれ。」

そして突然、マッギルは硬直した。少しの間そのまま横たわっていたかと思うと、頭が脇に倒れた。目を開いたまま、凍りついたように。

亡くなった。

「いやだ!」ソアが泣き叫んだ。

その声が兵士たちに届いたのであろう、一瞬の後に背後で扉の開く音がし、数十名の者が部屋になだれ込む音が聞こえた。自分の周りで動きがあるのを、頭の片隅で理解していた。城の鐘が何度も何度も鳴らされるのをぼんやり聞いた。鐘の音に合わせるように、ソアのこめかみで血が脈打った。それもすべて不鮮明になり、やがて部屋がぐるぐると回り始めた。

ソアは気を失い、石の床にばたりと倒れた。.




第六章


一陣の風が吹き、ガレスの顔に当たった。瞬きで涙を拭いながら、日の出の薄明を見上げた。これから夜明けを迎えようという時に、遠く離れたここコルビアンの断崖には、葬儀に参列するため既に王族、王の友人たち、家臣ら数百名が一堂に集まっている。 そのすぐ向こうには、兵士たちに止められるようにして群衆が押し寄せているのがガレスにも見えた。数千人の人々が遠くから儀式を見ている。彼らの顔に浮かぶ悲しみは心からのものだった。父は愛されていた。それだけは確かだ。

ガレスは直系の家族たちと一緒に、半円になって父の亡骸を囲んで立っていた。遺体は地面に掘った穴の上に置かれた板 に安置されている。周りには埋葬用のロープが取り付けられている。群衆の前には、葬儀の時にだけ使う深紅のマントをまとったアルゴンが立っている。顔は頭巾で覆い隠され、王の遺体を見下ろす表情は謎めいている。ガレスは、アルゴンがどれだけ知っているのか探るため、表情を読み取ろうと躍起になった。アルゴンは自分が父を殺したことを知っているだろうか?そうだとして、誰かに話すだろうか?それとも運命に任せるだろうか?

ガレスにとって不運だったのは、あのうっとうしいソアの疑いが晴れたことである。牢獄にいる間、父を刺すことができないのは明らかだ。父自身が皆にソアは無実だと言ったのは言うまでもない。ガレスにとっては事が余計にややこしくなっただけだ。この事件の調査のための審議会も既に作られ、暗殺の詳細をすべて調べていくことになる。他の者とともに遺体の埋葬を待つ間、ガレスの心臓は大きく脈打った。自分も一緒に埋めてもらいたかった。

証拠がファースに行き着くのは時間の問題だった。そうなった時、ガレスも彼と共に引きずり出されることになる。注目を他へ向けるよう、誰か別の者に非難が向くよう、早くなんとかしなければならない。周りの者は自分を疑っているだろうか、とガレスは考えた。被害妄想になっているのかも知れない。皆の顔を見たが、誰もこちらを見てはいない。リース、ゴドフリー、ケンドリックの兄弟たち、妹のグウェンドリン、そして母がいた。母の顔は悲嘆に満ち、強張っている。父が亡くなってから、別人のようになり、話すこともできなくなっている。悲報を聞いたとき、母の中で何かが起こり、麻痺した状態になっていると聞いた。顔の半分が機能しなくなり、口をあけても言葉が出てくるのに時間がかかっていた。

ガレスは母の後ろにいる王の顧問団の顔を見た。将軍の筆頭であるブロムとリージョンの長コルクが前に、その後ろには父の顧問が多数立っていた。誰もが悲しみを装っていたが、ガレスにはわかっていた。こうした人々、審議会のメンバーや顧問団、将軍たち、そしてその背後にいる貴族や領主たちがちっとも気にしていないことを。彼らの顔には野心が見て取れた。権力欲。王の亡骸を見下ろしながら、誰もが次に王座につくのは誰だろうと考えているのをガレスは感じた。

ガレスはそうしたことを考えていた。暗殺という混乱の後には一体何が起こるだろうか?やましいところも厄介な事情もなく、疑惑も他の誰かに向いていたとすれば、ガレスの計画は完璧で、王座は自分に回ってきたであろう。何と言っても、自分は嫡出の長男だ。父は王位をグウェンドリンに譲ることにしたが、兄弟以外はその謁見の場に居合わせなかったし、父の望みは批准されてもいない。ガレスは審議会というものを、彼らがどれほど法を厳密にとらえているかを知っていた。批准されなければ、妹が統治することはできない。

そのため、やはり自分に回ってくるのだ。正式な手順を踏めば - そうなることを見届けようとガレスは心に決めていたが – 自分が王位に就く。法律ではそうなっている。

兄弟たちが反対するのは疑う余地がない。父との謁見を思い出し、グウェンドリンが王位に就くよう主張するだろう。ケンドリックは心が純粋なので、権力を掌握しようとは思わないだろう。ゴドフリーは無関心だ。リースは若すぎる。グウェンドリンだけがガレスにとって唯一の脅威だった。だがガレスは楽観していた。審議会は、女性がリングを統治することをまだ承認しないだろうと思っている。ましてや十代の少女では。そして王に批准されていないことが、彼女を却下する格好の理由となる。

ガレスの心の中で本当に脅威に思っているのはケンドリックだった。ケンドリックが民や兵士たちに愛されているのに比べ、自分は誰からも嫌われている。状況を考えると、審議会が王位をケンドリックに授ける可能性は大いにあった。ガレスが王位に就くのが早ければ早いほど、権力を使って早くケンドリックを抑え込むことができるだろう。

ガレスは手が引っ張られるのを感じた。見下ろすと、結んだロープで手の平が熱くなっていて、皆が父の棺を降ろし始めたことに気づいた。見回すと、兄弟たちも自分と同じようにロープを握り、ゆっくりと降ろしていた。ガレスは出遅れたので、彼の側が傾いた。もう片方の手を伸ばしてロープを掴み、平らにした。皮肉なことだった。死んでからも、父を喜ばせることができない。

遠くで城の鐘が鳴った。アルゴンが進み出て、手をかざした。

「Itso ominus domi ko resepia…」

今はもう使用されていないリングの言語、彼の先祖が千年の間使っていた王族の言葉だ。ガレスが子どもの頃、家庭教師が覚え込ませようとした言葉、王の権力を求める以上必要になる言語だ。

アルゴンが突然中断し、見上げてガレスを真っ直ぐに見つめた。アルゴンの半透明の眼が自分の身体を焼き尽くすようで、ガレスは背筋がぞっとした。ガレスは顔を赤らめ、国中が自分を見ているのでは、そしてアルゴンがこちらを見た意味を知っている者がいるのでは、と思った。その眼差しの中に、アルゴンが自分の関与に気づいていることを感じた。だが彼は不可解で、人間の運命の紆余曲折には決して関わらないようにしていた。アルゴンはこのことを漏らさないだろうか?

「マッギル王は素晴らしい、公平な王であった。」アルゴンがゆっくりと言った。深く、この世のものとは思えない声だった。

「先祖に誇りと名誉を、王国には誰よりも富と平和をもたらした。運命の定めで、王の人生は早くに奪われたが、残してくれたものは深く、豊かである。その遺産の成就は、今我々に託された。」

アルゴンは一旦話を止めた。

「我々のリング王国は、四方を深く脅威的なものに囲まれ、脅かされている。エネルギーの盾一つに守られている峡谷を越えたところには、我々を八つ裂きにするに違いない野蛮人や生き物の国がある。この高原からはリングの反対側に、我々に危害を加える部族がいる。我々は比べものにならないほどの繁栄と平和を享受しているが、安全はつかの間のものである。」

「なぜ神は、その絶頂期にある者を我々から奪ったのか?賢明で公平な良き王を?なぜこのような殺され方をする運命にあったのか?我々は運命の手に握られた駒や人形に過ぎない。権力の頂点に上りつめてさえ、地中に埋められることになりかねない。我々が問うべきは、何を求めるかではなく、我々自身がどんな者になろうとするか、である。」

アルゴンは頭を垂れた。ガレスが手の平の熱さを感じる頃には、棺は下まで降ろされていた。ドシンという音とともに地面に着地した。

「いや!」叫び声が聞こえた。

グウェンドリンだった。半狂乱になって、自分も飛び込むかのように穴の脇まで走り寄った。リースが走ってきてグウェンを掴み、引き止めた。ケンドリックも進み出て手伝った。

ガレスは彼女に何の同情も覚えず、むしろ脅威を感じた。彼女が埋められるのを望めば、その手配をすることさえできただろう。

本当に、彼なら。

*

ソアはマッギル王の亡骸からほんの数フィートのところに立ち、地中に降ろされるのを見ながら、その光景に打ちのめされていた。国内で最も高い断崖に位置する壮大な場所を、王は埋葬場所として選んだのだった。雲にまで届きそうな、崇高な場所である。夜明けの太陽が少しずつ高く昇っていくにつれ、雲はオレンジ、緑、黄色、そしてピンク色に染まった。日中、空は晴れることのないもやに覆われて、王国全体が悲しんでいるかのようだった。ソアの脇にいるクローンもクンクンと泣いた。

ソアが甲高い声を聞いて見上げると、エストフェレスが空高く、皆を見下ろしながら円を描くように飛んでいるのが見えた。ソアはまだ呆然とした状態だった。この数日間に起こったこと、自分が短い間に愛するようになった人が地中に埋葬されていくのをここでこうして王族に混じって見ていることがまだ信じられずにいた。とても有り得ないことのようだった。王のことはまだ知り始めたばかりで、本当の父のように思える初めての人だった。何よりも、ソアは王の最期の言葉が頭から離れなかった:

「そなたは他の者とは違う。特別だ。自分が何者かそなたにわかるまで、我々の王国に平和が訪れることは決してないだろう。」

王は何を言おうとしたのだろう?自分は一体何者なのだろう?自分はどう特別だというのか?どうして王はご存じだったのだろう?王国の運命がどうソアと関係しているのだろう?王の妄想だったのだろうか?

ここからずっと離れたところに偉大な国がある。ワイルド、そしてドラゴンの国も越えたところだ。ドルイドの国だ。そなたの母はそこの出身だ。そなたは答えを得るためにそこに行かねばならない。





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「息をのむ、新しい壮大なファンタジシリズ。モガン・ライスが再び放った傑作!この不思議な冒険の物語はJ・K・ロリング、ジョジ・R・R・マティン、リック・リオダン、クリストファ・パオリニ、そしてJ・R・R・トルキンなどを髣髴とさせる。読み始めたら止められない!」–アレグラ・スカイ、ベストセラ”SAVED”の著者 「王の行進」はソアの冒険の旅を一歩先に進め、成人する過程を描く。自分が何者なのか、どんな力を秘めているかが次第に明らかになっていく。そして戦士になるための道を歩み始める。 地下牢から脱出後、ソアはマッギル国王暗殺の企みが再びあったことを知り、恐怖におののく。マッギルの死後、王国は混乱に陥る。誰もが王座を狙うなか、宮廷は家族のドラマ、権力闘争、野心、嫉妬、暴力そして裏切りに翻弄される。子どもたちの中から継承者を選ばなければならない。そして皆の力の源である古代の運命の剣は、新しい者が手にする可能性が出てくる。だが、こうしたことのすべてが覆るかも知れなかった。殺人の凶器が見つかり、暗殺者捜索の営みが強化された。同時にマッギル家は、リング内から再び攻撃を仕掛けようとするマクラウドの脅迫に直面する。 ソアはグウェンの愛を取り戻そうとするが、時間がない。戦友たちと共に、リジョンの団員が全員生き延びなければならない地獄の百日間に向けて準備するよう命じられた。彼らは峡谷を越え、リングの守護の及ばないワイルドへ入り、ドラゴンが守っていると言われるミスト島目指してタトゥビアン海を渡らなければならない。それが彼らの成年の儀式なのだ。 皆、無事に戻れるだろうか?リジョンの留守をリングは乗り切れるだろうか?そしてソアは自分の運命の秘密を知ることができるだろうか? 物語の世界構築と人物設定に磨きをかけた「王の行進」は、壮大な冒険談。友達、恋人、ライバル、求婚者、騎士とドラゴン、そして陰謀、策略、成年、失恋、欺瞞、野心と裏切りを描く。栄誉、勇気、運命そして魔術の物語である。忘れることのできない世界へ読者を引き込む、すべての人を魅了するファンタジ。60,000語。 シリズの第三巻~第十巻も発売中です!

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